最新記事
BOOKS

【大河「べらぼう」5分解説①】老中・田沼意次を襲った天災と米価の急落

2025年4月25日(金)16時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
諸国名所百景 信州浅間山真景

「諸国名所百景 信州浅間山真景」歌川広重画 1859(安政6)年 国立国会図書館蔵

<歴史の教科書では賄賂政治のイメージが強い田沼意次。彼が老中として実験を握った安永〜天明時代は天災に飢饉、米価の暴落など、災難の連続だった>

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』4月20日放送の第16回では、渡辺謙演じる田沼意次の知恵袋として長い時間を共にした平賀源内(安田顕)が幕府内の権力争いに巻き込まれ、獄中で命を落とすストーリーが描かれた。

相棒のような源内を失った意次の人間性が浮き彫りになり始め、ますます今後が気になるドラマだが、この記事では、意次が手腕を振るった時代は、実際どのような世相だったのかについて見ていこう。

本記事は書籍『Pen Books 蔦屋重三郎とその時代。』(CEメディアハウス)から抜粋したものです。

※蔦屋重三郎 関連記事
神田伯山が語る25年大河ドラマ主人公・蔦屋重三郎「愛と金で文化・芸能を育てた男」
【「べらぼう」が10倍面白くなる!】平賀源内の序文だけじゃない! 蔦重が「吉原細見」にこめた工夫
大河ドラマ『べらぼう』が10倍面白くなる基礎知識! 江戸の出版の仕組みと書物の人気ジャンル
江戸時代の「ブランディング」の天才! 破天荒な蔦重の意外と堅実なビジネス感覚
作家は原稿料代わりに吉原で豪遊⁉︎ 蔦屋重三郎が巧みに活用した「吉原」のイメージ戦略

◇ ◇ ◇

幕府の財政を圧迫した米価の下落

蔦屋重三郎が江戸の版元として活動した、その前半期である安永・天明の頃は、政治の舞台では、老中・田沼意次が実権を握った、いわゆる「田沼時代」である。

商業活性化を積極的に進めた田沼意次の政策は、米に依存した幕府の財政の立て直しとして発案され、功を奏したかに見えた。商業経済の発展と拡充によって、庶民の暮らしや社会風俗にはある種の華やかさが芽生え、錦絵や狂歌などさまざまな文化の流行を見たのである。

意次の父で紀州藩士の田沼意行(おきゆき)は、紀州藩主・徳川吉宗の小姓であった。1716(享保元)年に7代将軍・徳川家継(いえつぐ)が後継もなく早くに亡くなると、吉宗が8代将軍となり、意行も江戸に随行して新参の旗本となった。意次は吉宗の子・家重の小姓となり、父・意行の死後は家督を継いだ。

その後、家重、家治(いえはる)と二代の将軍に仕えた。とりわけ家治の信任が厚く、1772(安永元)年には正式に老中となる。600石の旗本から5万7000石の大名へと異例の大出世を果たしたのである。

意次が仕えた9代・10代将軍以前、8代将軍・吉宗の時代には、享保の改革が推進され、幕府の財政や政治の引き締めが図られていた。当時、江戸や名古屋など都市の発達が著しく、商業が発展したことで、米以外の商品の生産・流通・消費が加速していたのである。これにより米の価格が相対的に低下し、米に依存する幕府の財政を圧迫したのだ。

吉宗はしばしば「米将軍」と称されるが、それはいかに米の価値の下落を押しとどめるかが吉宗の終生の課題だったからである。支出を削り、農業生産を向上させることで、吉宗は赤字財政の打開を図った。

newsweekjp20250423081606-1c00ee18b6a4bae32c1d0af9f62c84345c8c4b26.jpg

「諸国名所百景 信州浅間山真景」歌川広重画 1859(安政6)年 国立国会図書館蔵 
天明期には浅間山の噴火によって、多くの人々が犠牲となった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中