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カズオ・イシグロが新作で描く、友達AIロボットの満ち足りた献身

Unprecedented Input

2021年3月15日(月)13時30分
ローラ・ミラー
カズオ・イシグロ

イシグロ作品を社会批評として読むのは間違いではないが、それでは核心を逃す EYEVINE/AFLO

<ノーベル文学賞後初の長編小説、6年ぶりの新作で人工知能の奇妙で美しい内面に切り込んだ>

カズオ・イシグロの最新作『クララとお日さま』(邦訳・早川書房)の語り手クララと、2005年の傑作『わたしを離さないで』の語り手キャシー。2人の共通点は、頭文字のKだけではない。

クララは「人工フレンド(AF)」と呼ばれるロボットで、ある日14歳の病弱な少女ジョジーの遊び相手として裕福な家庭に買い取られる。

『わたしを離さないで』と非常に似た設定だ。同著の中で10代のキャシーが暮らすのはクローン養成所。施設の少年少女は臓器を提供するためだけに生を受け、育てられている。

個人の存在というのはその人自身のものだという通念に、他人に臓器を提供する道具としか見られないクローン人間の姿をぶつけることで、イシグロは暗に社会を批判した。

私たちは一部の人を便利な道具としか見ていないのではないか。宅配ドライバーを荷物を届けるだけの存在と見なし、宅配で安いTシャツを買っても、それを縫った人には思いを巡らさない──。クローンを待ち受ける運命に戦慄しながら、私たちはそんな己の無神経を突き付けられた。

だが物語の主眼はそこではない。時にクローンは運命から逃れたいと願うが、それより強いのは自分のオリジナル、つまりは複製元である人間に会いたいという気持ちだ。

創造主の前に立ち、「私はなぜ生まれたのですか。なぜ死なねばならないのですか」と問うのが彼らの悲願。この点においてクローンは、この世に生まれた全ての人間と何ら変わらない。

一方、人工知能を搭載したロボットのクララはそんな疑問を持たない。子供に寄り添うことが自分の存在理由だと、彼女は理解している。

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