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パックンのお笑い国際情勢入門

日本人は「政治に興味ない」「専門的に生きている」──外国人のお笑い座談会より

NOT STANDUP, SIT DOWN COMEDY CHAT

2019年8月6日(火)09時45分
ニューズウィーク日本版編集部

政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにない?

パックン あまり不満はないし、政治は変わらないだろうと。デモにも参加しないしね。ナジーブさんはどう思います?

ナジーブ 何も変わらないと思う日本人が不思議です。私たちシリア人は、もっと抑圧的な政権があるのに、変わると思って頑張っている。

たぶん、日本の政治にはユニークな歴史がある。日本は戦後、制度ががらっと変わったのに、偉い人たちは変わらない。日本の20世紀の教育についてのドキュメンタリーで、インタビューしたことがある。おじいちゃんが言ったんです。私たちは戦前、最後の日まで、天皇が神様で、最後の1人が死ぬまで戦うと言ってたのに、次の朝「今日からは平和主義」だったと。偉い人たちは同じ人たち。それがすごくユニークだと思う。だから政治が変わっても、おいしい思いをするのは同じ人だと、日本人は思ってるんじゃないか。

パックン これは僕が東工大で受け持った授業でも言ったんですけど、日本は現代の民主主義国家としては珍しく、革命を起こしていないんです。民主主義を自らの力で獲得したわけじゃなく、お偉いさんたちが決めて民主主義になった。ヨーロッパに視察団を送って、学んで明治憲法を作った。その後GHQが来たけれど、(戦前と)今の民主主義はそこまで変わらないです。百姓が一揆をして政権を倒したわけじゃない。

つまり、政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにないんじゃないか。僕は歴史学者じゃないから分からないけれど。

編集者 政治ネタ、テレビや舞台は厳しいけれど、ネットだったらあるんじゃないでしょうか。

チャド マキタスポーツさんがそのへんのことを面白く語ってたわ。昔はみんなが会社とかで表現できないことを、お笑い芸人がテレビでやってた。今やったら、自分で発散するSNSとかのツールがあるので、テレビにお笑いを求めていない。

パックン なるほどね。テレビにお笑いを求めていない。じゃあ、そろそろ最後の質問になりますけど、日本のお笑いは政治をネタに取り入れることに挑戦したほうがいいと思います?

ナジーブ 絶対そう。いま真面目な問題を取り上げるのは、硬いニュース番組ばかりで、おじいちゃん、おばあちゃんしか見ていない。

パックン 確かに、討論番組なんて若者は見ていない。若者に伝えるには、お笑いという人気メディアを通してやるのがいい。若者に政治に関心を持ってもらう、これはアメリカのお笑いの役割の1つでもある。

チャド でも今は若い人、そもそもテレビを見てない。

パックン じゃあ、YouTubeでやればいい?

チャド 方法は何であれ、どうにでも伝わる。

パックン 周さんはどう思います?

 求めても、無理じゃないですか。

パックン 無理? この4人の力ではどうにもならないと。

 やりたければ、パックンとか、チャドさんが頑張ってくれたらいい。でも日本のお笑いを変えるのは、僕は無理だと思うんですよ。新しい風を吹き込むのはいいと思うけど。

チャド 世界のことを知ろう、世界情勢を知ろうって言ったって、食いつく人はいないです。

パックン ちょっと待って。この特集の前提を否定しないでよ!

(一同爆笑)

◇ ◇ ◇

この後も話は続き、「それでも日本人には海外に目を向けてほしい。グローバル化が進み、日本だけでやっていける時代ではない」「そういうロジックでなく、なんかもうちょっとロマンのある理由はない?」「結婚して子供を作ればいいじゃん」「え、それ?」であるとか、日本にはお笑いに限らず、世界に広げられるコンテンツがたくさんあるのにポテンシャルを発揮できていないといった真面目な話であるとか、とっておきのジョークを披露し合うとか、楽しい夜は更けていった。

それでも当日、パックンはこんなふうにバシッと座談会を締めたのである。

パックン 日本人がもう少しお笑いに寛大になって政治ネタが増えたら、意見交換が増え、刺激もちょっと増えて、もっと政治に参加もできるようになる。もしかしたら、お笑いから世の中を改善する流れも作れるかもしれない。そしてその流れを作る第一歩が、このニューズウィーク日本版の特集です!

(一同拍手)

チャド いや、でも......日本人、今も意外と寛大ですよ。

ナジーブ カンダイだって言うけど、本当に寛大なのか、単に関西大学の出身なのか。

パックン いま締まったよ! 続けるな!


座談会・前編:「日本のお笑いって変なの?」をパックンが外国人3人と激論しました

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