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LGBT

「あなたはゲイですか?」って聞いてもいいんですか

2015年11月6日(金)16時15分
小暮聡子(本誌記者)

 新聞社で働いていたときも、デスクとか先輩に自ら自分はゲイだと言っていた。そういう記事をたくさん書いてたから。当時ゲイについて書くときには、エイズの話とか、読者が読みたいと思うような問題に絡めて書いていた。ゲイというのは男らしくないというイメージがあるから、男性記者は書きたがらない。書いたら自分がゲイだと思われるかもしれないし。だから当時ゲイ問題を書いていたのは圧倒的に女性記者だった。彼女たちはもともと女性としての大きなスティグマを背負っているから、ゲイ問題にも共感的。

 でも今の若い記者は、男性でも帰国子女が多かったり、情報がアップデートされていてまったく偏見がない。この5年くらいでかなり変わった。いったん歯車が動き出すと全部動き出すというのが、やっと今始まっているような感じがする。

 アメリカの場合も社会全体が変わったということではなくて、情報がアップデートされた世代が社会の多数派を占めるようになってきているだけだ。オバマ大統領を当選させた若い世代が、社会全体の層を底上げしている。

時代はカミングアウトする方向にしか行っていない

――今の日本はLGBTにとって暮らしやすい社会なのか。

 暮らしやすいならもっとカムアウトしているはず。黙っていて、世間と波風立てないように生きていくのが幸せなのか。もっとオープンに堂々と生きていくのが幸せなのか。それは個人の人生観だ。だがその人生観はどういう風に育てられたか、どういう友達がいたのかによって変わってくる。黙っていても幸せなのかもしれないけど、いったんその「幸せ」を疑い始めたらものすごく不幸なことだ。

 カミングアウトというのは、むやみやたらに「自分はゲイだー!」と公表することではない。どこまでカムアウトしなければいけないのか、という話がある。今の若いゲイたちは、昔のように素性を隠したりせずにゲイの友人を自宅に呼んでホームパーティーをしている。これも立派なカミングアウト。時代はカムアウトする方向にしか行っていないし、カムアウトしない方向に逆戻りすることは絶対にない。コミュニティーの中でカムアウトしていればいいし、それをやっていれば次の段階としてコミュニティーの外にも言うは必ず出てくる。コミュニティーの外でも言うかどうかは、個人の自由だ。

 カミングアウトとは何なのか。それは、まずは自分で自分のことを認めるということだ。自分が自分に対してカムアウトすること。それが最初のステップで、そうすると次に必ず誰かに言いたくなるし、誰かに言ってもいいやと思うし、誰かに言った上で付き合いたいなという風に必ず動き出す。自動的にそうなっていく。まずは自分が自分に誇りを持ってアウトすること、これがカムアウト。

 自分自身にカムアウトする、受け入れる。その心理的なステップには色々あるが、例えばキリスト教徒だとしたら罪(自分がゲイであること)を許す、ということかもしれない。その次に、アクセプトする、受け入れるという段階。仕方がないんだ、と受け入れるのではなくて、ポジティブにアクセプトする。自分はこれでいいんだ、と受け入れる。そうすると、今度は「プラウド(誇り)」という言葉が出てくる。自分が自分であることに誇りを持つ。セルフエスティーム(自尊心)を持つ。

 こういったステップは人によって違うし、途中でいじめられることもあるかもしれないけど、それはいじめられる方が悪いんじゃなくて、いじめるほうが悪いんだという社会を作っていかなければならない。ゲイの人権運動というのは、そんな運動をしなくてもいいようになるのが究極の目的だ。

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 ※当記事は2015年11月10日号
  p.44からの「LGBT特集」の関連記事です。
  <特集の収録記事>
  ・アメリカ:LGBTの終わらない闘い
  ・日本:変化の風が吹き始めた
  ・Q&A:レズビアンタレントの一ノ瀬文香に聞く

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