最新記事

EV

EVの未来を変える夢の「全固体電池」...トヨタが放った「重要なメッセージ」とは?

The EV Holy Grail

2023年9月8日(金)11時30分
アイリーン・ファルケンバーグハル(自動車業界担当)

230912P42NW_TEV_02.jpg

自動車メーカー各社は全固体電池の開発を加速させているが実用化には充電インフラ整備や現行品との互換性など課題も多い。(写真)現在多くのメーカーはテスラの北米充電規格を採用 TOM WILLIAMSーCQ-ROLL CALL/GETTY IMAGES

「トヨタの主張で興味深い点の1つは10分で充電できるところ」だと、調査会社S&Pグローバル・モビリティーのステファニー・ブリンリー首席アナリストは言う。「多くの点で、より迅速な充電能力とそれを支える強固なインフラのほうが、1100キロ超の航続距離より重要。消費者が知りたがっているのは充電インフラと充電時間だ。『必要なときに安全かつ確実に充電できるか、時間はどのくらいかかるか』と聞かれて、消費者が信頼できる答えを返せるなら、航続距離はそれほど重要ではない」

多くの自動車メーカーは2030年か35年までに全固体電池を実用化することを目指している。その一方で、カーボン・オフセット(炭素の吸収と排出の相殺)によって気候の安定化を図る「気候ニュートラル」を実現できると喧伝するメーカーもある。要するに、サステナビリティー(持続可能性)に重点を置いて、50年かそれ以前に、車の開発・製造・耐用年数を通じて気候ニュートラルを実現する、というわけだ。

現行品との互換性も必要

これらの取り組みに全固体電池は一役買っている。とはいえ、恐らく現行の自動車も置き去りにはならないだろう。それは現行のEVや充電インフラについても同じだ。

「全固体電池の充電の迅速化の恩恵をフル活用するには充電用の新たなハードウエアが必要になりそうだが、未来の車は現行のハードウエア、特にほとんどの自動車メーカーが採用している北米充電規格(テスラ充電コネクター)と互換性がなければならない」と、EV情報サイトのEVパルスのチャド・キルシャナー・コンテンツ担当副社長は指摘する。

「将来アップデートが必要になるかもしれないが、それはかなり先だろう。今ではみんな1台の車に10年以上乗り続けるからなおさらだ」。S&Pグローバルによれば、アメリカの自動車平均使用年数は20年前の9.7年から現在は12.5年に延びている。

「限定的ではあれ、全固体電池が20年代末に登場すると期待するのは無理もないが、注目すべきは世界で最も大きく、評判が高く、利益を上げている自動車メーカーの1つにおいて、全固体電池開発の道のりが平坦ではなかったことだ」と、EV専門記者のボルカーは言う。「トヨタは17年時点で全固体電池を20年までに実現できると言ったが、今では6年以上後にずれ込んでいる。全固体電池が2030年より前にEVに搭載されるとは思えない」

それでもトヨタのメッセージは重要だとS&Pグローバルのブリンリーは言う。「内燃機関主流の市場からEV主流の市場へのより大規模な移行はたった1つの開発や技術の飛躍的進歩によって決まるわけではない。トヨタの発表は移行に向けた新たな一歩──その一歩一歩が重要なのだ」

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安リスク「十分注意する必要」と新藤経財相、G

ビジネス

トランプ氏SNS企業、モルガンSなどが株式取得 第

ワールド

豪4月就業者数は予想以上に増加、失業率4.1%に上

ビジネス

米バークシャー、保険大手チャブ株を67億2000万
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中