最新記事

キャリア

「このままでは世界と戦えない」 社員を博士課程に送り込む島津製作所、真の狙いは?

2021年11月2日(火)18時28分
辻村洋子 *PRESIDENT Onlineからの転載

では会社が大学院に派遣して、新しい環境で最先端の研究に触れる機会をつくってはどうか。そう思いついたとき、真っ先に浮かんだのが以前から連携していた大阪大学だったという。もともと飯田さんは協働研究所の所長でもあり、大学の研究者やその研究テーマについてもよく知っていた。

大阪大学には、島津製作所がこれから伸ばしたいと考えている事業分野を研究している先生がたくさんいる。なのに、その先生たちと共同研究やディスカッションをする機会を得られるのは、かなり高いレベルの知識を持った社員だけ。まだそのレベルに達していない若手を送り込む仕組みをつくれば、高度人材育成や自社の発展に、引いては日本の科学技術発展につながるのでは──。

提案から実現まで1年を切るスピード

この考えを大阪大学に話したところ、大学側は大賛成。以前から技術者や研究者の育成に貢献したいと考えてはいたが、どう具現化すればいいか迷っていたというのだ。飯田さんが打診したのは2020年の夏、プロジェクトが実現したのは翌春。このスピード感を見れば、両者の思いがいかに合致していたかがよくわかる。

「成長したいと思ったらどんどん成長できる、学びたいと思ったらすぐ実現できる。そんな道筋を、意欲ある若手につくってあげたかったんです。今思えば、自分が学位を取りたいと考えたときに方法がわからなくて苦労したからかもしれないですね」(飯田さん)

加えて、事業の発展につなげるための仕組みもしっかりとつくられている。社員に学んでもらうのは、あくまでも島津製作所の事業戦略にのっとった分野。そのため、研究テーマは事業部をはじめ経営戦略室や技術推進部などが一緒になって検討し、その上で大学と相談して決めていくという。

派遣した社員に期待するのは、グローバルな共同研究の成果を事業や製品に反映し、社会に還元すること。同社としては、この一連の流れを通して企業理念である「科学技術で社会に貢献する」を実現したい考えだ。

記念すべき第1号

2021年4月からは、トライアルとして1名が大阪大学薬学研究科の博士課程に派遣されている。研究対象は、島津製作所が研究開発の重要テーマと位置づけている「核酸医薬品の分析」だ。

記念すべき第1号となったのは、入社3年目の林田桃香さん。理学部の修士課程を終えたのち同社に入社し、分析計測事業部の研究職に就いた。院生時代に博士課程へ進まなかったのは、「企業に入ることで、いま自分が持っている専門性と社会の実情を照らし合わせたかったから」と語る

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州各国が新たなドル資金融通の枠組み議論、FRB依

ワールド

ロシア、ガザ巡り独自の国連決議案提示 米国案に対抗

ビジネス

ネクスペリア問題、顧客が応急策検討 欧州・中国事業

ビジネス

マクロスコープ:LINEヤフーの憂鬱、AI検索普及
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中