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「このままでは世界と戦えない」 社員を博士課程に送り込む島津製作所、真の狙いは?

2021年11月2日(火)18時28分
辻村洋子 *PRESIDENT Onlineからの転載

2006年には、島津製作所では女性初の部長に就任。科学技術系の企業は、そもそも理工系の女子学生が少ないこともあって女性比率が低いことが多い。同社も例外ではなく、女性管理職比率は今もメーカー平均を下回っている。

人時代には、労働基準法に基づいた母性保護で、女性への残業規制があった。責任を持ってやり終えたい仕事を途中で男性社員に渡さねばならない場合も多く、悔しい思いをした。会社に「女性の残業規制をなくした上で男女問わず残業を減らす方向へ」と提案したこともあったという。

残業規制や学位取得への道筋など、働く中でぶつかった壁を、飯田さんは自ら会社に働きかけることで乗り越えようとし続けてきたのだ。

「伸ばしたい事業分野の研究室へ」戦略的に派遣

島津製作所上席理事の飯田順子さん新そんな彼女が発案したのが、2021年4月に始まった「REACHラボプロジェクト」だ。これは、島津製作所から30歳前後の若手技術者や研究者を大阪大学の博士課程へ派遣し、大学と一体となって高度グローバル人材を育成しようというものだ。

両者は共同研究講座や「大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所」を開設するなど、以前から研究や協業の面で連携を深めてきた。だが、若手の育成を目的にタッグを組むのは今回が初めて。人材開発室室長の妹崎淑恵さんは、「一般的な企業の学位取得制度とは違い、より戦略的に博士号取得を支援していく」と意気込みを語る。

「当社が伸ばしたい事業分野と大阪大学の先生が研究しているテーマとをマッチングして、該当する研究室へ若手社員を派遣します。業務を完全に離れて研究に集中することで知識と人脈を広げてもらい、復社後には博士レベルの研究能力を持ったリーダーとして活躍してもらいたいと思っています」(妹崎さん)

自身が悩んだ経験から若手を支援

選抜された社員は大学院入試を経て、大阪大学の「REACHラボ」に在籍。ここで指導教員や大学院生らとともに研究を行い、2~3年かけて博士号取得を目指していく。入学金や授業料などはすべて会社負担で、派遣中は社員が確実に成果を出せるよう協働研究所が伴走するなど支援も手厚い。

こうした仕組みになったのは、発案者の飯田さんが、若手がさまざまな経験をしやすい環境をつくりたいと考えていたからでもある。

「以前から社内には、優秀な若手は積極的に異動させて色々な部署を経験させようという方針がありました。でも現実的には、優秀な若手は部署が手離したがらない。違う環境を経験して成長したいという若手は多いので、何とかしたいなと思っていたんです」

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