最新記事

金融

「危機に強い金相場」、コロナショックでも通用するか

2020年5月4日(月)10時14分

金にしがみつけ

08年に金融危機が訪れたのは、直近の金相場上昇局面のさなかだった。つまり、金融危機は値上がりをさらにあおった。

金融危機の初期には金融資産が幅広く急激に値下がりしたため、投資家は換金可能なものは何でも売らざるを得なくなり、金相場が急落する場面があった。新型コロナの世界的大流行が市場のパニックをもたらした今回も、同様のことは起きた。

しかし08年も今年も、各中銀が大量の資金供給に動き、債券利回りは低下。インフレが起きて他の資産や通貨の価値が目減りするリスクを避けるため、投資家は金に戻った。

バンク・オブ・アメリカのアナリストらは、大半の主要国でゼロ金利ないしマイナス金利が極めて長期化すると指摘する。一部の投資家は、中銀の資産買い入れが紙幣の印刷と同じ作用をもたらし、ドルの価値を減じて、金の魅力が再び増すことになるとみる。バンク・オブ・アメリカによれば、米連邦準備理事会(FRB)は「金を印刷することはできない」。

中国の買いは過去のものか

08年以降、金市場では中銀だけでなく個人からの需要が高まった。中銀は売り手から買い手に転じた。さらに中国のような新興国からの需要も高まっていた。中国の金消費量は03年はわずか200トン強だったが、11年には1450トンに拡大した。

今や、ロシアの中銀などは経済浮揚に追われ、金購入を減らしている。

中国とインドの金市場の成長も約10年前に頭打ちになり、今回、新型コロナによる封鎖措置で事実上、崩壊した。何百万人もの失業者が出ただけでなく、ドルが上昇すれば人民元建てやルピー建ての金価格はさらに割高になるからだ。

インド金地金宝飾協会のスレンドラ・メフタ事務局長は「国民の可処分所得が減る一方、金価格は上がっている」と述べ、同国で金の販売はさらに減るか、買い手はまったくなくなるとの見通しを示した。

消費者が金を手放す可能性もある。タイでは今月、街中で現金を得るための換金売りの長い行列ができた。HSBCのアナリストによると、今年の売却で市場に供給される金は過去最高水準に近づくと見込まれる。

インドの宝飾業界団体の会長によると、同国の今年の金消費量は350トンにまで下がり、昨年の約700トンから大幅に落ち込む可能性がある。

リフィニティブ・GFMSのコンサルタント、サムソン・リー氏によると、中国の需要も昨年の950トンから640トンに減る可能性がある。

金融商品で実物買い

金価格が上昇するには、需要の落ち込みが他で穴埋めされる必要がある。これまでのところ、ETFでそれが起きている。金を原資産とする金融商品であるETFの金投資は、年初から400トン以上増えて3300トンを超え、評価額では約1800億ドル(約19兆3000億円)と最高規模になった。

資産運用会社スプロットのピーター・グロスコプフ最高経営責任者(CEO)は、金でのヘッジ需要がずぬけたものになると予言。「不安な投資家は十分すぎるぐらいいる」と話した。

ただ、金価格がさらに急騰することに懐疑的なアナリストも多い。

年末に3000ドルの強気予想をするバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチですら、来年の平均価格は2063ドルに下がり、それから数年は2000ドル以下で推移するとの見方だ。

[ロンドン/ムンバイ/ニューヨーク ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・東京都、新型コロナウイルス新規感染91人確認 都内合計4568人に(グラフ付)
・『深夜食堂』とこんまり、日本人が知らないクールジャパンの可能性
・感染深刻なシンガポール、景気悪化で新型コロナ対応措置を段階的に解除へ


20050512issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中