コラム

「世界で最も安全な国」中国で続く無差別殺傷事件の本当の動機

2024年11月28日(木)16時14分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

共産党の特権階級でなく、子供や女性を狙う中国の男たち

ただし、若者たちが無気力な「躺平(タンピン、寝そべり)主義」ばかり、というわけでもない。無錫の無差別切り付け事件の容疑者は21歳の男子学生だった。彼は自分と同じような8人の学生(しかも、ほとんどが女子だ)を無差別に殺害した。

中国語のSNS上で、無差別殺傷事件は「献忠」「献忠学」と呼ばれる。明末の時代に四川で起きた農民反乱のリーダー・張献忠は怒りに火が付きやすく、官僚を含めて無差別殺戮を繰り返した。だが風刺画が示す「現代の献忠」たちは、厳格な警備で守られる共産党の特権階級に全く復讐する隙がない。攻撃できる相手は、子供や女性など力の弱い人々だけだ。


自分より弱い立場の人々を道連れに、身勝手な無差別殺傷事件を起こす(そして自分は生き残る)中国人の男性たち......この社会に希望はあるのだろうか?

ポイント

夜騎開封
11月初旬の深夜、河南省鄭州市から約50キロ離れた開封市へ、大学生らが幹線道路を自転車で走った。6月に鄭州の4人の女子大学生が開封名物の小籠包を食べるため、夜の自転車旅に出たのがきっかけ。他都市にも広がっていた。

躺平主義
中国のネット用語。何もせず横になって寝るという意味から転じて、全く努力せず、ただ最低限の生活を送ること。若者が将来に希望を見いだせない状況が背景にある。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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