コラム

化学燃料タンクローリーに食用油を入れられても、抗議しない中国人の心理

2024年07月31日(水)18時29分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国でまた食品汚染問題が起きた。日本の「汚染水」にはわざわざ国際電話で電凸するのに、自国の食用油汚染や毒ミルクなどの食の安全事件に抗議せず、知らんぷりするのはなぜか>

「俺が料理を炒めるとき、いつも炎が大きく立ち上がる。それは俺の腕前だとずっと思っていたのに、何と、サラダ油の中に灯油が混ざっているのが原因だった──中国人シェフ」

先日、中国メディアの「新京報」が、ある中国大手企業のタンクローリーが「コスト削減」名目で化学液体燃料の石炭油を輸送した後、タンク内の清掃をせずに、そのまま食用油を入れて輸送した、という調査報道記事を公開した。中国ネットは一時大騒ぎになり、誰かが冒頭のジョークをSNS上にアップ。一方で、家庭用油搾り機の人気が急上昇した。

実に中国式な対応である。日本なら、まず政府や企業が記者会見で謝罪。満足する対策が出なければ国民は大きな声で抗議し、法律で自らの権利を守ろうとするだろう。

中国人に集会や抗議の自由はなく、普通の人々は政府や企業の責任を追及する強い権力もない。唯一できるのは、事件を揶揄するジョークをネットでシェアしながら、さっさと家庭用油搾り機を購入すること。彼らは家で食用油を搾って自給自足で身を守る──購入した油の原料に問題なければだが。

今から10年前にも中国メディアが同じような記事を報じたことがあり、この事態は公然の秘密だった。10年前と同じく、今回も一時的に話題になるが、そのまま棚上げにされるだろう。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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