コラム

「中国崩壊論」の嘘とホント

2017年11月22日(水)19時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国経済には様々な問題が山積しているが、これまでの成長が一瞬で消えることはない>

最近、日本で「中国崩壊論の崩壊」という議論が盛んだ。05年の反日デモ以来、中国国民と日本国民の互いへの感情は悪化する一方。経済的にも軍事的にも巨大化する中国に不安を覚えた日本人に受けたのが、「中国崩壊論」だ。かつて東欧の社会主義国とソ連があっという間に消滅したように、都合の悪い国がある日突然消えてくれたら、という願望がその根底にはある。ただご存じのとおり中国は崩壊していない。

日本国籍を取得した元・中国人という客観的な立場から言うが、中国は崩壊しない。中国人もバカではない。もちろん経済にバブルな部分もあるが、ほとんどの中国人はマジメに働いている。こつこつ生産したものが一瞬で消えることはない。

もちろん中国経済には問題が山積している。非効率なのに特権を貪る国有企業、終わらない不動産バブル、無謀な開発を続ける地方政府とその巨額の借金......。バブル崩壊で日本が崩壊しなかったように、こういった問題がはじけても中国はすぐには崩壊しない。ただし、中国政府は別だ。

最近、中国のデモや当局に対する抗議活動は国外でほとんど報じられなくなった。しかし政府が動きを抑え込んでいるのではなく、当たり前の話としてメディアが取り上げなくなっただけ。数自体は減っていない。

拝金主義に侵されてきた国民の間で「良知」、つまり人間が本来持っているはずの良識も再認識されている。最近、知識人の間でひそかにささやかれているのが「猪性」という言葉。「猪(ブタ)」のように権力にひたすら従う人間になるな、と中国人が中国人を戒めているのだ。彼らは変わり始めている。

今、仮に中国で選挙が行われたら勝つのは共産党だろう。形だけ存在するほかの政党に統治能力はない。台湾では民主化後もしばらく独裁政党だった国民党が政権を維持した。ただし、それが永久に続かないことも台湾の歴史は証明している。

恐怖と妄想が入り交じった表情で口をあんぐりと開けて崩壊を待つより、冷静になって中国のいいところと悪いところに向き合ったほうがいい。それが日本の国益になる、と元・中国人、現・日本人として忠告しておく。

【ポイント】
国有企業

中国政府が全資産を保有する企業。政府の力を背景に、国有企業が民間企業を犠牲にする「国進民退」現象が問題視されている

台湾民主化
87年に戒厳令解除。96年に初の直接選挙による総統選が行われ、国民党の李登輝(リー・トンホイ)が当選した。00年の総統選で政権交代

<本誌2017年11月28日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story