コラム

常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

2024年05月01日(水)20時30分
ダイヤモンド

天然のダイヤモンドは数百万年~数億年かけて成長する(写真はイメージです) 123dartist-Shutterstock

<韓国の基礎科学研究院・多次元炭素材料センターや蔚山科学技術院などから成る研究チームが、新しい合成ダイヤモンドの作成法を発表。その詳細と合成ダイヤモンド開発の意義について概観する>

ダイヤモンドの生成には、高温高圧条件(およそ1000~1500℃、5万気圧)が必要です。地球上で5万気圧を達成できる場所は地下約150キロ付近なので、天然のダイヤモンドは地球深部のマントルで作られます。

ダイヤモンドは美しさを活かして宝石になるだけでなく、一般に入手できるものとしては地球上で最も硬い物質なので、ダイヤモンドカッターや研磨剤など工業用途で広く使われています。ただし、生成条件が狭く、条件を外れると化学組成が同じで結晶構造が異なるグラファイト(黒鉛)になってしまうため、希少性が高く高価です。そこで研究者たちは古くから、ダイヤモンドを人工的に合成して安価に入手できないかと模索してきました。

これまでに商業化されているダイヤモンド合成法には、高温高圧法(High Pressure High Temperature, HPHT法)と化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition, CVD法)があります。HPHT法は地球深部の高温高圧環境を実験室に再現してダイヤモンドを成長させる技術、CVD法はメタンと水素の混合ガスを使って高温低圧(大気圧以下)で種結晶の表面にダイヤモンド結晶を析出(せきしゅつ)させる技術です。

今回、韓国の基礎科学研究院・多次元炭素材料センターや蔚山科学技術院などから成る研究チームは、「第3のダイヤモンド合成法」とも言える「液体金属合金を使って、常圧(大気圧)で種結晶を使わずに短時間でダイヤモンドを作りだす方法」を開発したと発表しました。研究成果は総合科学学術誌「Nature」に4月24日付けで掲載されました。

新しい合成方法の詳細と、合成ダイヤモンドを開発する意義について概観しましょう。

合成ダイヤモンドの歴史

ダイヤモンドの合成法は、19世紀末から何人かの研究者によって実験されていました。ダイヤモンドを地上まで運ぶキンバーライト(母岩)の性質や、隕石中にダイヤモンドが見つかることから、高温高圧が必要であることは早くから知られていましたが、実験室での合成成功にはなかなか至りませんでした。

世界で初めてダイヤモンドの合成に成功したのは、HPHT法を発明したアメリカのジェネラル・エレクトリック社で、1955年のことでした。

ダイヤモンドの種結晶を使って、原料となる炭素物質(黒鉛や微小なダイヤモンド)を金属溶媒に溶かし、高温(1500℃程度)、高圧(5~6ギガパスカル[概ね5~6万気圧])を与えて、ダイヤモンド結晶を成長させます。工業用の研磨剤とするために、種結晶を用いずに1ミリ以下の微小な結晶を多量に作成する場合もあります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

特定のペース念頭に置かず政策判断、大方の委員が認識

ワールド

豪2月CPI、前月比横ばい コアインフレは予想下回

ワールド

自衛隊による支援、約束したことはない=米国連大使発

ワールド

チリ、国連総長候補バチェレ元大統領の支持撤回 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 8
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 9
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 10
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story