最新記事

宇宙

地球外生命が存在しにくい理由が明らかに――やはり、われわれは孤独だった?

2018年4月9日(月)15時45分
松岡由希子

生命に不可欠なリンが極めて少ないことがわかった超新星残骸「かに星雲」ーwikimedia

<英カーディフ大学の研究プロジェクトは、「宇宙には、生命に不可欠な化学元素であるリンが不足している可能性がある」との研究成果を発表した>

地球大気圏の外に、生命は存在するのだろうか----。長年、科学者たちは、地球外生命体の存在に希望を抱きながら様々な研究に取り組んできたが、いまだに、その存在は確認されていない。むしろ、このほど、地球外で生命が存在しづらい要因とみられる事象のひとつが、明らかになった。

英カーディフ大学の研究プロジェクトは、2018年4月、欧州宇宙機関(ESA)と王立天文学会(RAS)の共同年次総会(EWASS)において、「宇宙には、生命に不可欠な化学元素であるリンが不足している可能性がある」との研究成果を発表した。

超新星爆発によってリンは放出されると考えられた

リンは、炭素や酸素などとならび、地球上の生物が生活機能を営むために必須となる生体元素のひとつで、DNAの生成や、エネルギーの貯蔵と放出を担うアデノシン三リン酸(ATP)に不可欠なものだ。

宇宙では、大質量星がその寿命の最終段階で起こる大規模な爆発現象、すなわち超新星において放出されるガス雲に、リンが含まれていると考えられてきた。

2013年には、米ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)の研究プロジェクトが、17世紀後半の爆発によって生まれ、地球から約11光年の距離に位置する、カシオペア座の超新星残骸「カシオペア座A」を観測し、超新星によってリンが生成されたことを確認している。

リンが極めて少ない超新星残骸「かに星雲」

英カーディフ大学の研究プロジェクトは、スペイン領カナリア諸島に属するラ・パルマ島のウィリアム・ハーシェル望遠鏡を使って、6500光年ほど離れた牡牛座にある超新星残骸「かに星雲」のリンと鉄からの赤外線を観測し、前述の「カシオペア座A」での観測データと比較した。

その結果、「かに星雲」では「カシオペア座A」よりもリンが極めて少ないことがわかった。研究チームでは、この結果について、「『カシオペア座A』は稀な超大質量星の爆発によるものであるため、このような違いが生じたのではないか」とし、「超新星からリンが供給され、隕石で宇宙を移動するのだとしたら、若い惑星は、生まれた場所によって、リンが欠乏した状態となり、生命が生まれづらくなるおそれがある」と考察している。

ただし、現時点では、英カーディフ大学の研究成果は、まだ予備的段階のものにすぎない。研究プロジェクトでは、「かに星雲」にもリンが豊富な領域が存在する可能性があるとして、今後も天体観測を継続したい考えだ。

リンと超新星の関連性を明らかにするためにはさらなる研究の進展が待たれるところだが、生命体が存在する可能性を探るうえで、「どのような形態の超新星が近くにあるか」という点も注目すべきポイントのひとつにはなりそうだ。

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中