最新記事
インド

世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

IS INDIA’S ECONOMY OVERHYPED?

2024年4月22日(月)13時24分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
インド東部コルカタの市場

世界一の人口と若年層の厚みは大きな強みだが(東部コルカタ) DEBAJYOTI CHAKRABORTYーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<中国経済が減速する中、年率7~8%で成長するインド。今後10年間で世界3位の経済大国になるという予想は実現するのか>

世界の2大新興国に関する金融市場やニュースメディアの見解の変化を表す表現として、スタンダード&プアーズ(S&P)が昨年発表した報告書のタイトル──中国は減速、インドは成長──ほど的確なものはないだろう。

中国が経済の減速に苦しむ一方、インドは繁栄を謳歌しているように見える。インドの株式市場は活況を呈し、国立証券取引所に登録された取引口座数は2019年の4100万から23年には1億4000万に急増した。

さらに、欧米企業が中国から撤退するなか、有力な代替としてインドが台頭している。年率7~8%前後の成長率を誇るインドは、今後10年間で世界3位の経済大国になると多くが予想する。

だが、今世紀末までにインドが中国とアメリカを抜いて世界最大の経済大国になるという一部の予想が現実になる可能性はあるのだろうか。それとも現在の好況は過大評価されているのか。

表面上、インドは他の主要経済に対して重大な利点を有している。1つ目は、人口動態が良好であること。23年4月、インドは中国を抜き、公式に世界最大の人口大国となった。また、25歳未満が人口の43.3%を占め、中国の28.5%に比較すると労働人口が圧倒的に若い。

さらに、欧米諸国による中国からの輸入品への関税引き上げや、中国国内の労働コストの上昇と規制強化も、多国籍企業による中国市場からの撤退が続く要因となっている。そうなれば、膨大な人口と好景気を誇るインドが代替に選ばれるのは当然だろう。また、大手の欧米企業や国際機関の幹部にインド人が多いことも、インド経済に多大な利益をもたらしている。

とはいえ、インド経済の潜在力は過大評価されている。まず、人口の優位性は見た目ほど大きくない。インドの出生率は女性1人当たり2人で、人口置換水準(人口規模が維持される水準)の2.1を既に下回る。さらに重要なのは、23年のインドの女性労働力参加率が32.7%で、中国の60.5%よりはるかに低いことだ。その結果、総労働力参加率は中国の66.4%を下回る55.3%にとどまっている。

同様に、インドの賃金は中国より大幅に低いが、教育水準と技術水準も低い。世界銀行によれば、中国の15歳以上の識字率が20年時点で97%に達したのに対し、インドは22年時点で76%だった。

米中対立の激化がインドに有利に働くのは確かだが、この地政学的優位性は保護主義政策によって相殺されている。貿易障壁は中国よりインドのほうが高く、外国直接投資へのハードルもより高い。そのため、中国から撤退した欧米企業の多くは、投資家に優しいベトナムやバングラデシュを好むかもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小林氏が総裁選へ正式出馬表明、時限的定率減税や太陽

ワールド

アルゼンチン予算案、財政均衡に重点 選挙控え社会保

ワールド

タイ新首相、通貨高問題で緊急対応必要と表明

ワールド

米政権、コロンビアやベネズエラを麻薬対策失敗国に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中