コラム

ライブ会場が不足する「2016年問題」が、いよいよ表面化している

2016年04月28日(木)18時00分

首都圏のライブ会場不足が海外アーティストの来日公演にも影響している egon69-iStock. 

 今月、8年振りに来日公演を行なったイギリスの老舗ヘヴィメタルバンド、アイアン・メイデンのライブに出向くと、ヴォーカルのブルース・ディッキンソンが「いつもはこの4倍くらいの会場でやっているんだけど......」と切り出した。「でも、今日はいつもの4倍楽しい」と続いたので、皮肉ったわけではない。会場となったのは6000人規模の両国国技館。同会場で2公演というコンパクトなツアーになった。バンドの人気から考えるととにかく小規模の興行だが、プロモーターが大会場を渋ったわけでもなく、適切な会場がどこも空いていなかったのだ。バンドを指揮するベーシストのスティーヴ・ハリスは、来日に先駆けてのインタビューで、「叶わなかったのは大きな会場でやることだった。武道館クラスの会場に全くの空きがなかった。だから、少し小さな会場で2回ということになった」(『BURRN!』2016 年5月号)と語っている。

 筆者が音楽評論家・伊藤政則氏にインタビューしたところ、「とにかく会場がない。まずは日本武道館説が出たんだけど、あそこは1日や2日よりも1週間や10日間連続で押さえるほうが優先されるという。蓋を開けてみたら、4月はエリック・クラプトンがあったりして、武道館がものすごく渋滞」していたという(『文藝別冊 アイアン・メイデン』)。大物アーティストになればなるほど、会場の空き具合にあわせて来日スケジュールを調整することが難しくなる。アジアツアーの一環や、オーストラリアツアーに向かう道中に立ち寄ることが多いので、最初に日程が定まり、その後で、希望に沿う会場を探すことになる。最適な会場が見つからなければ、来日自体を見送る判断にもなりかねない。

 今回、「武道館クラスの会場に全くの空きがなかった」とガッカリされたのは不運ではない。東京五輪のタイミングにあわせた改修工事や老朽化による解体が相次ぐことによって、首都圏を中心にライブ会場が不足する「2016年問題」が、いよいよ表面化しているのだ。2010年に厚生年金会館が閉館し(跡地はヨドバシカメラのオフィスビルが建設予定)、渋谷公会堂は昨年10月に建て替えのために閉鎖、区庁舎と同時に建て替えられ、地上6階地下2階の公会堂として生まれ変わることになる。中野サンプラザはまだ稼働しているものの、こちらも再整備により、2020年度には区庁舎と中野サンプラザが解体され、最大1万人収容のアリーナに生まれ変わるという。

 つい先日、日本スポーツ振興センター(JSC)が、大きめのライブ会場としても重宝されてきた国立代々木競技場について、耐震改修工事のために2017~18年度の間の22カ月にわたって使用できなくなることを明らかにした。JSCによれば、五輪の前年には稼働させたいとしている。去年12月から今年の8月にかけては、さいたまスーパーアリーナが外壁改修等の工事に入り、この2月から5月までの間は休館となっている。横浜アリーナも全面的な設備等の改修工事のために1月から6月まで休館している。ちょうどアイアン・メイデンのような「ドーム公演というわけにはいかないが、数千人規模のホールでは小さすぎる」というバンドを迎える会場の選択肢が極端に少なくなっている。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

商船三井の船舶がホルムズ海峡を通過、日本関連で初め

ワールド

フランスのコンテナ船がホルムズ海峡通過、所有者変更

ワールド

政府内に省エネ呼びかけ案、エコ運転など「ナッジ手法

ワールド

世界食料価格、中東紛争で上昇 肥料コスト高も影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トラン…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 9
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story