コラム

組織心理学の若き権威、アダム・グラントに聞く「成功」の知恵

2022年06月11日(土)13時26分

そこでウィークスは丁重に「化学の仕組み」を説明しようと持ち掛け、「そっちの目標を教えてくれ!」と言った。「それを達成できるかもしれない3つの異なる方法を考えて、どんな特性があるのか説明するから、どれがうまくいきそうか言ってくれ。それで一緒に問題を解決できる」

これこそ、リーダーとのあるべき付き合い方だ。より一般的な表現に変えれば、「あなたのアイデアがどのように機能するかを教えてくれ」「あなたにとっての潜在的な障害は何か」「あなたの貴重な時間を無駄にしないため、問題を回避する専門知識を持つ人を見つける手伝いをさせてほしい」といった感じだろうか。

ポトリッキオ 誰もが今年身に付けるべきスキルを教えてほしい。

グラント 1つは統計学。もし自分が教育の世界を自由に変えられるとしたら、三角法(三角関数とその応用)を捨てて統計学に置き換える。なぜなら私たちは毎日、統計を解釈しなければならないからだ。私たちの社会は統計に対する理解がとても低い。これは大問題だと思う。

もう1つは、即興を学ぶこと。なぜなら、人生における成功や幸福の多くは即興によって実現できることだから。面接での会話でも教室でも、私たちのやりとりや決断はほとんど台本どおりにはいかない。状況に適応し、臨機応変に立ち位置を変えられるようになれば、見つめ直すこともより簡単になるだろう。

ポトリッキオ あなたが書いた『GIVE&TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(邦訳・三笠書房)、『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(同)、『OPTION B(オプションB)逆境、レジリエンス、そして喜び』(邦訳・日本経済新聞出版、共著)、そして『THINK AGAIN』以外に、この1年間に読むべき本は?グラント アマンダ・リプリーが書いた『ハイ・コンフリクト(HighConflict)』、オリバー・バークマンの『4000週間(Four ThousandWeeks)』、そしていま読んでいるのが、8月刊行予定のシャンテル・プラットの『あなたの神経科学(TheNeuroscience of You)』。これは私がこれまで読んだ中で脳についての最高の本だ。

ポトリッキオ 最後に、成功と幸福をどうすれば切り分けられるのか。

グラント たいていの人は、成功とは目標を達成することだと考えている。私はそれを見直した。私にとって、成功とは自分の価値観を生きること。つまり、いくらお金を稼いでも、権力や地位を手に入れても、自分にとって大切な原則を曲げなくてはならないのであれば、大した意味はない。

自分の価値観を生きることを成功と定義すれば、もっと幸せになれる方法で目標を追求し、人生に意味を持たせることができる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story