コラム

組織心理学の若き権威、アダム・グラントに聞く「成功」の知恵

2022年06月11日(土)13時26分

ポトリッキオ 権力者はもっと外部の専門家の意見を聞くべきだと思う。

グラント 権力者に外部の専門家の意見をもっと尊重させたいと考えるのであれば、その人物が自分で思っているほど深い知識を持っていないことを指摘するのも1つの方法ではある。

けれども、そのやり方は有効ではないと、私は思う。こちらの立場を危うくしないためには、それは賢明な選択でもない。(相手の知識不足を指摘するためには)「あなたは自分が何を話しているのか分かっていない」と言わなくてはならない。

それは礼儀正しい態度とは言えない。もっと効果的なのは、権力者に自分が知っていることを説明させること。その過程で自分の知識の欠落を発見することが多いという研究結果もある。

実は本書では取り上げなかったが、(米ガラス大手)コーニングのCEOウェンデル・ウィークスから聞いたスティーブ・ジョブズとの素晴らしいエピソードがある。

ある日、ジョブズから電話があった。彼らはiPhoneとiPadの開発中で、ガラスは壊れやすいので試作品にプラスチックのカバーを付けていた。ジョブズはこの試作品を持ち歩いていたが、鍵と一緒にポケットに入れていたため、カバーにすぐ傷が付いた。

彼は「携帯電話に傷を付けるわけにはいかない!」と激怒して、開発チームに「ガラスで作らなければだめだ。落としても割れない強いガラスが必要だ!」と言った。彼らはあらゆる落下テストを行ったが、ガラスは粉々になってしまった。

そこで(友人の)ジョン・シーリー・ブラウンがコーニングとウィークスの名前を出して、「彼らは特殊なガラス加工が得意だから、話をしてみたら」と言った。ジョブズはウィークスに電話して、「うちの携帯電話のガラス製カバーを作ってほしい。こちらの指示するやり方で!」と言った。

ウィークスはすぐにジョブズがかなり傲慢で、自分は何でも知っていると思い込んでいることに気付いた。(ジャーナリストの)ウォルター・アイザックソンがジョブズの伝記でこの話を取り上げているが、ウィークスが私に語った内容とは少し違う。

その本によれば、ウィークスは「君は自分が何を話しているのか分かっていない。科学のことを少し教えてやろう」と言ったというが、誰もジョブズにそんな口を利くはずがない。人心掌握術にたけたウィークスのような人間は特にそうだ。

本人の説明によれば、ウィークスは「そのようなガラスを作るために分子がどのように相互作用するか教えてくれ」というふうに言った。ジョブズは説明を始めて20秒ぐらいで、自分が何を言っているのか分からないことに気付いた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

韓国、対米通商交渉を加速へ 米韓首脳会談は中止

ワールド

貿易協議で合意の可能性あるが日本は「タフ」=トラン

ビジネス

TikTok米事業売却期限、再び延長の公算とトラン

ワールド

トランプ氏、イランへの和平交渉働きかけを否定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story