コラム

移民はまとめて「聖域都市」へ、トランプの奇策に問題点

2019年05月18日(土)13時40分

メキシコとの国境で米国境警備隊に摘発された不法移民 Lucy Nicholson-REUTERS

<移民に寛容な民主党支持の地域への強制移住案は、地方と中央が対立する米連邦制度の本質を突いているが>

トランプ米大統領は4月12日、不法移民をいわゆる「聖域都市」に移送する考えをツイッターで表明した。自らの移民政策に非協力的な民主党にしびれを切らした格好だ。

「民主党が危険な移民法を変えたがらないから、不法移民を聖域都市だけに移住させることを真剣に検討している。過激な左派は開かれた国境を歓迎しているようだから、喜ぶはずだ!」

「聖域都市」は政府の公式な用語ではなく、法的な定義があるわけでもない。だが国の方針に従わない不法移民に寛容な地域(都市に限らず郡や州の場合もある)を指す言葉として、このところ頻繁に使われている。

この問題は、連邦政府と各地方当局が法の執行をめぐって対立関係にあるアメリカの連邦制の本質を突く。両者の関係については、オンラインメディアVOXのダラ・リンドの説明が最も分かりやすいだろう。

彼女によれば、移民反対の超タカ派はこれらの聖域都市を「法の秩序を意図的に軽視し、法を守らないと決めた場所」だと考えている。民主党が支配する地方政府は、移民関税執行局(ICE)による不法移民の逮捕などを阻止するために「開かれた国境を支持する過激派」と同盟を結んでいるのだという。

一方、親移民派にとって聖域都市の方針は、トランプが移民について打ち出している後ろ向きの見解や、それが体現するアメリカの理想の破壊を、民主党支配地域が断固拒否するための格好の手段だ。自分たちの管轄区域に暮らす人々は、その法的立場がどうであれ、全て守りたいと彼らは考えている。

むしろ税収をもたらす

最新の統計によれば、こうした聖域運動の方針を導入している区域は39の都市と364 の郡に上る。行政当局は合衆国法典第8編第1373条を基に、その取り締まりを行っている。

第1373条は州や地方当局に対し、移民の市民権状況に関する情報をICEと共有することを禁じてはならないとするものだ。トランプ政権はこの法の実効力を大幅に強化し、聖域区域を取り締まるための道具にしている。

しかし、トランプが実際に不法移民を聖域都市に送る可能性は低いだろう。実行には数々の難題があり、どんなに腕利きの魔法使い(例えばトランプ政権の弁護士たち)の手にも負えないと予想される。ホワイトハウスが昨年11月にこの案を明らかにすると、ICEの弁護士たちはすぐに計画の合法性と論理に疑問を呈した。移民の移送には高い費用がかかり、議会はそのための支出を一切認めていない。

だがトランプが2020年の大統領選に向けた演説で、この計画を口にしなくなるとは考えないほうがいい。彼に陶酔している支持者たちが飛び付きそうな提案だからだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story