コラム

知られざる数億ションの世界(5)地方都市のタワマン最上級住戸は誰が、なぜ買う?

2022年09月27日(火)12時00分

もし、最上階・最高額住戸に誰も興味を示さなかったら、販売の責任者は顔面蒼白。このマンションはまったく売れないのでは、と絶望的な気持ちになってしまう、と、それくらい「売れて、当然」となるのが、郊外や地方都市における超高層マンションの最上階・最高額住戸なのである。

では、最上階・最高額住戸の購入者は、どういう人なのか。

それは、地元の人で、名士とされる人、というのが、よくあるパターンだ。

他人に買われたら、悔しい

以前、地方の大都市で話題になった超高層マンションがあった。一等地に建設され、地元の富裕層であれば買っておきたいと思う物件。そのため、販売前から、ナンバーワン住戸を買うのは誰か、が話題となった。

Aさんだろう、いや、Bさんかもしれない。そのような話が夜の街で盛り上がると、候補に挙がった人は心中穏やかではいられない。

競争心があおられるのか、「他の人に取られたくない」という気持ちが芽生えるのか。当然のように、高額のナンバーワン住戸を目指してしまう。

いわば"勢い"で購入しがちなのだが、それでも、眺望のよい超高層マンション最上階住戸は買って損することがない。交通至便で、買物にも便利な場所であるため、郊外・地方都市の超高層マンションも都心超高層と同様に中古で値下がりしにくいのが普通。そのなかでも、ナンバーワン住戸は、中古になっても「欲しい」という人が絶えない。

だから、値下がりしにくい。それどころか、値上がりし、儲かってしまうことが多いのだ。

だからこそ、よけいに欲しくなってしまう。

他人に購入されたナンバーワン住戸が中古で値上がりしていると聞くと悔しさが増す、と分かっているからだ。

郊外・地方の超高層マンションで、最上階に位置するナンバーワン住戸は、競い合うように購入されるため、ナンバーワン住戸が複数つくられるケースもある。ナンバーワンが複数あったら、それは「一番」とはいえないだろう、といいたくなる。が、そこには憎い工夫が凝らされる。

まず、最上階に最も広い住戸をつくる。本来のナンバーワン住戸だ。一方で、それに準じた広さの住戸をつくり、そちらは最上階とその下のフロアにまたがるメゾネット(2層住戸)にする、というような工夫を凝らす。

どちらも捨てがたい、という住戸を2つつくり、競い合う2人が出現したときにも、共にマンションを買ってもらおうという戦略である。

それくらい、郊外・地方都市で建設される超高層マンションのナンバーワン住戸は、人気があるわけだ。その街で、最初の超高層マンションとなれば、間違いなく人気は沸騰する。

全国各地で、超高層マンションが次々につくられ、びっくりするくらい高額な住戸が登場している背景には、そんな事情もあるのだ。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

櫻井幸雄

年間200件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。・公式サイト ・書籍/物販サイト

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国吉利汽車、傘下ジーカーを非公開化へ 再編で競争

ワールド

マクロスコープ:エンゲル係数が示す貧困化、「統計の

ワールド

G20財務会合、「動乱の時期」に国際関係深化を目指

ワールド

シンガポール、下半期は成長減速へ 中銀長官「相当な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 6
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 7
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story