コラム

「ジプシー」「チマチョゴリ」 ここはセビリア、異文化が融合した街

2019年07月04日(木)11時30分

From Jose Toro @josetoro.0

<スペイン南部アンダルシアのセビリアは、観光客も多く、西欧文化とイスラム文化が融合された場所として有名だ。ホセ・トロは「街の壁を横切る人々」にそれを見事に映し出す>

自分自身のホームタウン、あるいはコミュニティをベースに、1つのテーマに絞り込んで写真を撮り続けることは、しばしばインスタグラムの中でもよく見られるパターンだ。とはいえ、それが面白いかどうかは、また別の話である。

そんな中、スペイン南部アンダルシア州の州都セビリアに住むホセ・トロはユニークな作品を放つ1人。同都市で生まれ育った52歳の写真家だ。

モチーフがはっきりと定まっている。そのビジュアルスタイルと主題は、トロのカメラポジションから判断するに、街の壁を横切る人々だ。壁は時としてショーウインドーや遊園地のメリーゴーランドの側面になったりしている。だが、基本コンセプトは、街の風景がはらむ側面(外面的にも内面的にも)と人々が織りなす日常の光景である。ニッチでありながら、同時に普遍的な何かを解き放っている。

大半がセビリアで撮影されているということも、彼の作品をより魅力的にしている。逆説的に街のステレオタイプ的な環境設定は無視しているが、同時に、過去から現在につながる街のアイデンティティー要素は確実に取り入れている、という意味でだ。

アンダルシア、とりわけセビリアは、西欧文化とイスラム文化が見事に融合された場所として非常に有名な地域だ――たとえ大きな破壊と葛藤を経験してきたとしても。しかしながら、その融合が生み出した、観光客が頻繁に訪れる世界的建造物などの街のランドマークを、トロはほとんど無視しているのである。

とはいえ、この街が歴史的に経験してきたさまざまな文化の融合――マルチカルチャリズムは、彼の作品の大きな核だ。それが被写体である人物に見事に映し出されている。

例えば、1枚目のフラメンコの衣装を着たジプシーと思われる女性の写真。フラメンコの発祥の地と言われるセビリアの社会的メタファーになっているだけではない。典型的でない色白のジプシー(あるいは、そのように見える女性)は、ジプシーという民族自身の変貌や融合もまた自然の摂理に従っていることを表している。また、その手にあるスマートフォンは、現在のグローバルな消費文化を映し出す。

グローバルな融合という意味では、2枚目の写真(下)も極めてグローバルだ。特別な時にしか着ないであろう民族衣装チマチョゴリを着た朝鮮系の女性が、まったく文化の異なるセビリアの街中を歩いているのである。面白さが先に立って撮影したのかもしれないが、そこには確実に現時点でのセビリアのグローバル化が現れている。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story