コラム

どこか不可思議な、動物と少女のポートレート

2017年06月15日(木)11時45分

実のところ、シュワルツにとっての動物は、写真家としてのライフワークを超えている。これまで、彼女のキャリアのすべては動物たちと共にあった。MFA(美術学修士)を保持しているが、その時の卒論は「ペットと野良猫、野良犬たち」だった。出版した本はすべて動物をテーマにしたものだ。

だが、「動物写真家よりも、動物中心主義者であることが自身の最も大切な核だ」と彼女は言う。生まれた時からそういう気質だったそうだ。動物と人間に違いはない、むしろ人間のほうがエゴがあり残虐である、と考えている。

【参考記事】Picture Power 娯楽で殺されるライオンたち

とはいえ、そうした動物中心主義の気質だけでは、こういった作品は生まれなかっただろう。シュワルツが動物の写真を撮るようになったきっかけは、自身が子供時代、いわゆる鍵っ子だったこと。その寂しさを埋めるために猫を飼うことを許され、10歳からは、猫にドレスを着せて写真を撮るようになっていたという。

また、父親を19歳の時に亡くしている。さらには娘が3歳になった頃、シュワルツの母親と義理の母親が癌と診断され、半年後には共に亡くなってしまった。それが彼女に、いかに人生がはかないか、大切な人と時間を共にすることがどれほど大切かを教えてくれた。

それがきっかけとなり、シュワルツは大学の写真講師の仕事などでどれほど忙しくても、娘と可能な限り一緒に過ごし、動物たちとのフォトセッションを行うようになっていったのだ。

実際、写真という最終的な結果よりも、動物たちに会って関わりを持ち、娘と共に存在し、そうした経験をシェアすることのほうが何よりも大切だと彼女は語る。だからこそ、彼女の作品には、写真そのものさえ超えてしまうような何かがあるのかもしれない。

ちなみに、友人の飼っていた猿――この猿自身が友人でもある――の名にちなんで付けられたアメリアは、この秋からシュワルツの元を離れて大学に行くことになる。だが、彼女と動物とのプロジェクトはまだまだ続けていく、とのことだ。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Robin Schwartz @robin_schwartz

【参考記事】世界報道写真入賞作「ささやくクジラたち」を撮った人類学者

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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