コラム

アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性

2025年11月19日(水)14時45分

歳末商戦の消費動向が米経済を検証する手掛かりになる Levine-Roberts/Sipa USA/REUTERS

<従来からの「景気=株価=雇用」の連動という図式に変化が起きているのか?>

アメリカの景気は、これまで様々な波を経験してきました。多くの場合、景気がある程度加熱すると、そこで金融当局が引き締めを開始して、景気を冷却するわけです。その結果、株価が下がり、消費が冷え込み、雇用が低迷すると本格的な景気後退となります。

今年の前半、アメリカの労働省が失業率などの統計数字について、過去に遡ってより悪い方向に修正するということがありました。これに対して、トランプ大統領は不快感を示しましたが、自分が政治を行った結果として景気が悪化したとか、雇用が悪化したということは政権への評価につながりますから、大統領の反応は理解できないものではありません。


では、景気の本丸とも言える雇用が鈍っているのなら、これは景気後退の証拠だとして株価が下がったのかというと、夏の時点ではそうではありませんでした。つまり、これまでの景気の公式、つまり景気=株価=雇用の連動という図式に変化が起きている可能性があるわけです。

具体的には、AIの影響です。AIが初級の専門職の雇用を奪っているとか、そのために大卒の初任者向けポジションが激減して、この5月に大学を卒業した世代の就活が一気に冷え込んでいるということが言われています。その一方で、多くのテック系コンサルはAIの導入による効率化を売り込んでいますし、アマゾンなど大企業が自動化による雇用の削減を公言するといったニュースが日常茶飯事になっています。

AI普及による雇用情勢悪化でも景気は堅調?

そんな中で、一つの仮説が成り立っています。それは、今回の雇用悪化は、純粋にAIによる効率化の影響であり、景気は別段悪化していないという仮説です。このストーリーが正しいかどうかは、今まさに佳境を迎えている年末商戦の結果によって判定できると言われています。つまり、雇用悪化の数字を反映するように消費が冷え込んでいたのなら、従来型の景気低迷が始まっていることになります。一方で、年末商戦が活況なら雇用低迷はAIによる効率化の副作用であって、景気そのものは堅調だということになります。

その一方で、今月中旬になって株価に変調が起きました。NYダウは、11月12日に4万8000ドルの高値をつけた後は下落に転じて、4万6000ドル近辺まで下げています。では、いよいよ本格的な景気後退が始まったのかというと、一般的に言われているのはNVIDIAなどAI関連株による「AIバブル」が加熱した部分が剥げ落ちているだけという説明です。

つまり、雇用の低迷は景気が後退したからではなく、AIの普及によるリストラや採用減によるもの。また株価の低迷は、余りにも加熱したAIバブルに部分的に修正が入っただけ。そのように説明することができ、もしかしたらアメリカの景気そのものは堅調だという可能性もあるわけです。従来型の景気=雇用=株価の連動という公式には変化が出ているというわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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