コラム

アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性

2025年11月19日(水)14時45分

こうした仮説が本当なのかは、とにかく歳末商戦における消費動向を検証するしかないわけです。その歳末商戦については、昔は11月末の感謝祭休暇がキックオフという感じがありましたが、近年はもっと早期化しています。

10月後半から各ECサイトでは断続的に値引きが始まっており、11月中旬の現在ではまさに佳境を迎えていると言ってもいいと思います。肝心の消費動向ですが、まずバンカメ(バンク・オブ・アメリカ)のシンクタンク「バンク・オブ・アメリカ・インスティテュート」によれば、10月のクレカやデビットカード決済から推定される消費額は前年比で2.4%アップとなっているそうです。


一方で、調査機関「コンフェレンス・ボード」の行った調査によれば、消費者が考えている「年末商戦における予算」は、前年比で6.9%ダウンとなっているという厳しい数字もあります。

つまり好調さを示す指標と、景気後退を示唆する指標が交錯しているわけです。これは一例に過ぎませんが、多くのアナリストは好調と不調が交錯した結果、全体的にはほぼ前年並みになるのではという見解です。

米経済の今後の方向性はまだ見えていない

そんな中、まずは政府閉鎖が解除されたことで、11月17日から米国内の国内線航空網が正常化されました。これで、感謝祭休暇の帰省やこれに伴う消費行動に関する懸念は消滅したことになります。

心配されるトランプ政権の関税政策の影響ですが、直近の話題としては、コーヒーや野菜、果物など多くの農産物に対する関税は廃止されました。これは、物価対策の観点からだと思われますが、歳末商戦には追い風になると思います。中国製品への関税についてはまだ決着していませんが、例えばハイテク製品に関しては大幅な売価への転嫁は見られていないので、商戦への影響は軽そうです。

仮に雇用は悪化しているが、歳末商戦は堅調であって景気は底堅いということになったら、とりあえず、AIが景気を傷付けずに職だけを奪っているということになります。ならば、アメリカはどんな社会に向かっているということになるのか、実はまだ方向性は見えていません。

若者は大きな将来不安を抱えており、例えばニューヨークでは左派系市長を当選させるエネルギーになりました。ですが、仮にAIがどんどん職を奪っていくとして、全国的には社会にどのような変動が起きるのかは、分かりません。相変わらず移民排斥や製造業回帰という政策が正しいのか、あるいはAIを規制すべきなのか、それとは別に人間がAIに使われる非人間的な職場をどうするのか? 問題提起としては、様々な可能性があり、中間選挙のある来年2026年には、あらためて真剣な議論や新しい政治的な潮流が起きてくるのだと思われます。株価の新しいトレンドも、そのような新しい潮流を見て動き出すものと考えられます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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