コラム

サプライズはゼロだった米副大統領候補の討論会

2024年10月03日(木)23時00分

さらに驚いたのは、バンス氏によれば「2021年1月6日の議会暴動」などは実際にはないようなものであり、この時も「政権交代は平和のうちに行われた」というのです。トランプ氏への批判のセリフを思い切り用意していたであろう、ウォルズ候補は、このバンス候補の言い方を見て、丸い目を余計に丸くしていたのでした。その他にも意外だったのは、農業振興であるとか、有給の育休を全国法で義務化するなどという話題では、両候補は意気投合すらしていたのでした。

そんなわけで、分断と罵倒合戦という2016年以来の「選挙のパターン」がまるで消えてしまったかのような、不思議なテレビ討論でした。もちろん、こうしたトーンで進んだというのは、両陣営の計算が重なったからに他なりません。では、どういった思惑があったのかというと、ズバリ「未決定無党派層」の取り込みが狙いだったということです。


まずバンス氏としては、トランプ候補本人が延々と続けてきた「暴言パフォーマンス」でコア支持層を固める作戦は既に限界に来ているという判断があったのだと思います。そこで、今回は無党派層にターゲットを定めたと考えられます。CNNで政治アナリストのヴァン・ジョーンズ氏(オバマの元ブレーンの一人)によれば「トランプ政治のあらゆるクレイジーな点を洗い流して女性票と、無党派票に媚びただけ。全ては虚偽」と手厳しいのですが、とにかくバンス氏はこの方法論を徹底していました。

ウォルズ氏の方も、ほぼ同じような作戦であり、「未決定無党派層」への浸透をかなり意識していたようです。例えば自分の趣味は狩猟で銃を保持しており、以前は熱心なNRA(全米ライフル協会)の会員だったなどと述べて、銃保有派をかなり意識していました。2人がこうした姿勢を徹底したのには、決戦州と言われるペンシルベニア、ミネソタ、ウィスコンシンの3州での情勢が極めて僅差で推移している点もあると思われます。

このように、今回の副大統領候補のテレビ討論ではサプライズもなければ、過激な中傷合戦もありませんでした。これで、全体としては僅差のまま、約1カ月後の投票日まで推移する可能性が高くなってきました。その一方で、「オクトーバー・サプライズ」があるとしたら、中東情勢の悪化、株式市場の暴落といった軍事外交や経済に関わる激変が選挙の構図を変えるというシナリオになるのではないでしょうか。

【関連記事】
カマラ・ハリスの大統領選討論会「圧勝」が、もはや無意味な理由
「アメリカは4年前より地政学的に強くなった」って、ジョークですか?

ニューズウィーク日本版 高市vs中国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「高市vs中国」特集。台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

焦点:米企業、トランプ関税で利益率悪化 消費者は値

ワールド

韓国与党、対米投資法案採決急ぐと表明 「誤解は解か

ワールド

加首相、ダボスでの発言後退と米財務長官 トランプ氏

ワールド

再送-ウクライナ第2の都市ハルキウに攻撃、広範囲に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 8
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 9
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story