コラム

「絶不調」バイデンを深追いしなかったトランプ

2024年07月03日(水)15時00分

ですが、冷静に考えてみるとトランプ陣営には「深謀遠慮」があったのかもしれません。つまり、相手のバイデンが絶不調に陥った場合に備えて、予め作戦を練っていた可能性です。仮にバイデンが不調になって、沈黙したり、辻褄の合わない場面があったりしても、トランプとしてはそこで「KO」は狙わずに最後まで淡々と討論を続ける、そのような「作戦」がトランプとブレーン達の間で練られていたのかもしれません。

まず、現時点でのトランプの最大のテーマは、無党派層や穏健保守層に浸透することであり、そのためには「お行儀の良い」姿勢は重要です。フラフラになったバイデンをロープに追い詰めるような行為は、これに反してしまいます。


それ以上に、トランプ陣営にはもっと残酷な作戦意図があった可能性もあります。それは相手のバイデンがどんなに不調に陥っても、そこで決定打を浴びせるのではなく、1時間半以上にわたるテレビ討論を淡々と続けることで、有権者に「バイデンの健康問題」をより鮮明に印象付けるという作戦です。

生涯をアメリカ政治に捧げてきたバイデン

そう考えて振り返ってみると、トランプは、この日の討論において、討論自体の否定といった「ちゃぶ台返し」は行わなかったばかりか、司会者の質問に対して珍しく丁寧に答えていました。それもこれも、バイデンの自滅を計算しての行動であったのかもしれません。そう考えなくては納得ができないぐらい、この日の討論は淡々と進行し、最後まで続けられていったのでした。そして、その1時間45分という長い時間をかけて、バイデンとその選挙運動は自滅していったのだと思います。

思えばジョー・バイデンという人は、上院議員として、また副大統領として、そして大統領として、一生をかけてアメリカ社会に身を捧げてきた人物です。そのバイデンに対してこのような過酷な時間を強いたというのは、民主党としても、あるいはバイデン家としても何かが決定的に間違っていたとしか言いようがありません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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