コラム

ようやく終わる日本の「コロナ鎖国」に反省はないのか?

2022年09月28日(水)11時30分

鎖国期間の後半には、いずれも徐々に「緩和」されていったのは事実ですが、当初はかなり厳格な運用がされており、慶弔に絡んだ日本渡航を断念した人は多かったのです。特に、親密な交流のあった日本の義父や義母を「きちんと見送れなかった」という悲劇は、個人的にも相当数耳にしました。

苦痛というのは、申請者だけにとどまりません。例えば、日本の在外公館、つまり大使館や領事館は、こうした問題に関して申請者と日本政府の間で、本当に厳しい「板挟み」になっていました。大使館や領事館では、多くの場合、日本語による窓口と、現地語による窓口に分かれているのですが、現地語対応の方はいつも長蛇の列となっていて、ネット受付が可能になるまでは、担当の方の疲弊も大変だったと聞きます。航空会社も同様です。

最大の問題は、このような「水際対策」の効果が疑問だということです。このような対策を行うことは、国外からの新型変異株の流入を遅くして、「時間を稼ぐ」ことが目的のはずでした。特に、今回のオミクロン株の場合はそうでした。ですが、せっかくこのように多大な犠牲が払われたにもかかわらず、その「時間稼ぎ」の効果があったのかは大きな疑問が残ります。

特に、問題はワクチンです。日本にはワクチンに関する賛否両論があり、1970年代以降の厚労行政が反対派に押されがちだった歴史もあります。だからこそ、水際対策で稼いだ時間を使って、政府は国民に丁寧な説明を行って接種率を高めるべきでした。

ていねいすぎるワクチン対応

ですが、小児へのワクチン接種に関しては、最初から厚労省も文科省も腰が引けており、10歳前後の子どもにも「本人の納得が大事」などと丁寧すぎるPRをやり、さらには学校現場ではワクチンに関する発言はご法度など、完全に「最初から負け試合」のムードでした。

若い世代への3回目以降接種も、副反応に関するネガティブな話題ばかりが拡散し、更に副反応の発熱では自動的にセンサーに引っかかって出社できなくなるので接種を躊躇、などという現象も出たようです。

親の死に目に会わせない、親に会わずに先に結婚せよ、などといった「およそ日本の家族重視の価値観とは相容れない苦痛」を多くの人に経験させておいて、せっかく稼いだ時間を、有効に使えなかったのです。その結果として、今回の第7波では、G7諸国中で最悪の感染拡大が現実のものとなりました。

そして、どう考えても諸外国より日本のほうが10万人あたりの新規陽性者などの指標は高い、つまり国外より国内のほうがウイルスの蔓延は「ひどい」状態となってもまだ「感染拡大の続く中では(水際対策の)緩和には慎重」という意味不明の「先送り」がされてきたわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界的「異例」事態、ECBは慎重姿勢維持を=アイル

ビジネス

中国人民銀、中期貸出制度を修正 政策金利の役割さら

ワールド

米ロ、黒海穀物協定再開について協議へ=ロシア報道官

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、3月は7か月ぶり高水準 製造業
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    トランプ版「赤狩り」が始まった――リベラル思想の温…
  • 10
    インド株から中国株へ、「外国人投資家」の急速なシ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story