コラム

核兵器禁止条約とNPTは二者択一なのか?

2022年01月26日(水)16時30分

1つは、核禁条約推進派の人々に、当面は「NPT」を認めてもらうことです。理念的には大きな譲歩になるし、特に5カ国の合法保有を認めるというのは受け入れ難いかもしれません。ですが、何らかの形でNPTを認めてもらわないと、非合法保有国には政治的に有利な状況になります。歩み寄りが必要です。

重要なのは、核戦争を回避するためには、合法保有の5カ国については「核の不使用」を信用する一方で、非合法保有国における廃絶を進めることです。廃絶には優先順位が必要であり、従ってまず非合法保有国に放棄を迫るのが順序だからです。

もう1つは、現在は核禁条約に加盟していないNPT上の合法保有国5カ国とその同盟国をどうやって核禁条約に加盟させるかです。まず合法保有国は核を持っているのに核禁条約に加盟するのは矛盾になります。核の傘に依存する同盟国も同じです。1つの案は「オブザーバー参加」ですが、現実が変わらないのに形式だけオブザーバーという中途半端な形で参加するのでは、意味が薄いという考え方もできます。

核廃棄の時間設定が一つの解決策

いい加減な形で保有5カ国と、その同盟国が「核禁条約にオブザーバー参加」ということになれば、核禁条約が骨抜きになってしまいます。同様に、非合法保有国が「自分達もNPTと核禁条約にオブザーバーで入れてくれ」などと居直る原因にもなりかねません。

1つの解決策は「時間」です。合法保有5カ国が、核弾頭の削減と、将来的な廃絶について、15年とか20年といった幅で目標を設定して合意するのです。この合意があれば、そしてその合意が国際公約としてオープンになり、従って国際社会全体の監視を受けるというシリアスなものであれば、核禁条約にオブザーバー参加する意味合いは出てきます。

NPTと核禁条約の両立を、合法保有国とその同盟国にも拡大し、非合法保有国を強く囲い込んで廃絶を迫る、これが実現すれば「核の時計」の針を戻すことができます。この時間軸を設定した合意というのは、実現すれば日本にとっても確かな一歩になると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story