コラム

オミクロン株の脅威、判断に迷い続けるアメリカ

2022年01月05日(水)13時00分

新型コロナの検査会場に列を作る人たち(ニューヨーク、1月4日) Carlo Allegri-REUTERS

<連邦政府も各州政府も、ワクチン・ブースターを打ってほしいと繰り返すばかりで、オミクロンの脅威をどの程度と見定めればいいのか判断できない状態>

昨年11月末から12月初旬にかけては、感染拡大に落ち着きが見られたアメリカですが、年末年始には一気にオミクロン株の感染が広まり、異常事態となっています。年明けの現時点では、例えば1月3日には「1日の新規陽性者が100万人」となり、新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来の最高を記録しています。

アメリカの数え方では、「第5波」が襲来した格好です。そして量的には今回が最大の波になっています。現時点では、感染は拡大の一途であり、14日の幅での拡大率は239%(ニューヨーク・タイムズの集計)となっています。感染の状況ですが、拡大のスピードが速いのが今回の特徴です。アメリカではゲノム解析でオミクロンの抽出をしてデータを公表することを現在はしておらず、「オミクロンが過半数」だという報道しかありませんが、やはりオミクロンの感染力は相当に強いと考えられています。

私の住むニュージャージー州(人口900万人)では、11月には1日あたりの新規陽性者が1000人を割り込む時期もありましたが、年末には急拡大しており現在は毎日2万人台に突入し、更に増える勢いです。州の発表している「再生産数(1人が何人に感染させるかの理論値)」も、1.7~1.9という値になっています。

一方で、死者数に関しては拡大が見られなかったのですが、ここへ来て増加の兆候が出てきています。死者のほとんどはワクチン未接種者だと言われていますが、その数がニュージャージー州の場合は、1月4日の発表では1日で79人という数字で、これが続くとか拡大するとなると、かなり厳しい状況と言えます。

ロックダウンへの強い抵抗

では、再度ロックダウンを行うのかというと、そうではありません。社会の中で対応はバラバラです。まず、世評を気にする大学は厳しめの対応、リモートでも実務が回ってしまうテックや金融は在宅勤務に回帰、ということでこの2つのグループは、かなりロックダウンに近い状態です。

一方で、元日に就任したニューヨーク市のエリック・アダムス新市長は、こうした動きを強く批判、「変異株のたびに経済を壊してはならない」「エリートが出勤しないのでは、街の経済は破壊されてしまう。在宅勤務では巨大都市の経済は支えられない」として、あくまで「経済は限りなくノーマルで」と訴えています。

強い対立が見られるのが小中高の教育現場で、多くの保護者は「これ以上のオンライン授業は(特に低学年の場合)子供の発達に甚大な影響がある」「子供が家にいては仕事に支障がある」として対面授業の継続を要望しています。一方で、教職員組合は「ワクチン接種率の低い児童集団は容易にオミクロンのクラスターを発生させ、自分達の生命を脅威にさらす」としてオンライン授業を主張、両者は譲らず訴訟も起きています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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