コラム

衆院選、民意の敵は党議拘束と当選回数

2021年10月27日(水)15時30分

衆院選の街頭演説に耳を傾ける東京都民 Issei Kato-REUTERS

<当選回数の多さで決まる党執行部の党議で拘束するのは、議会民主制を弱体化させるだけ>

議会など廃止すべきで、ネットを利用した直接民主制が理想だなどという言論が流行した時代がありました。ですが、直接民主制というのは、極端な減税とバラマキの双方を可決して国家を破綻に追い込み、最後にはポピュリズムが暴走して外部に敵を求めて戦争に訴え、本当に国を滅ぼす危険が予想されるなど機能不全の問題を抱えています。そうしたこともあってか、この種の言論は雲散霧消していました。

そんなわけで、民意と政策の間に代議員をはさむ間接民主制が、当面はベストという理解は揺らいでいません。今回の衆院選もその間接民主制という思想のもとに行われています。

そうなのですが、有権者の間には代議員、つまり国会議員を通じて民意が政策に反映しているという実感は弱いと思います。具体的には、例えば特定の小選挙区において、ある候補者がその選挙区の民意を受けて独自の政策を訴え、その選挙区の民意を代表して国会に登院したからといって、その政策を実現することはまず不可能です。

どうしてかというと、各政党には党議拘束というのがあって、法案の採決の際には党の決定に従わなくてはならないからです。党の決定、つまり党議に違反すると懲罰を受けます。反対票などを入れたら除名になるので、選挙区に強い反対論があるなどの理由でどうしても反対したい場合は、投票を欠席したり、棄権したりして処分を軽くしてもらう、せいぜいそのぐらいしかできません。

当選回数で決まる党内の序列

では、その党議というのは、どうやって決定するのかというと、党内の序列によって権力を得た集団が決定します。その党内の序列は、例外はあるものの、当選回数によって決まります。

ここでお断りしておきますが、この議論は自民党だけを批判するために行っているのではありません。日本の場合は少数政党でも党議拘束は非常に強くなっています。例えば、日本の政党の中で最も党議拘束の強いのは日本共産党で、党議に反する投票どころか、公の場で少数意見を表明することすら禁じられています。共産党の場合は極端だとしても、他の野党政党も相当に強い党議拘束をかけていることでは変わりません。連立与党の公明党も党議拘束は非常に強い政党です。

とにかく与党も野党も同じで、選挙運動の時はそれなりに自分の言葉で、選挙区にアピールする発言を行い、その選挙区の民意を代表して国会に行くようなことを言うわけです。ところが一旦当選して、議員バッジを身分証がわりに登院すると、選挙区の民意はどこかへ消えて「単なる一票」というモノになってしまいます。議員定数の削減が安易に語られる背景には、この議員が単なる「モノ=数」にしか見えないという問題がある思います。

もちろん、完全に青と白の木札(重要法案で議員が賛否を投票する)が歩いているということではなく、部会とか研究会とか派閥の会合など、それなりに発言や意見交換の場はあります。ですが、それは基本的に密室のコミュニケーションであり、基本的には当選回数の多い高齢議員が発言力を行使することになります。これも与野党ともに変わりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story