コラム

「菅、岸田、石破」と「トランプ、バイデン」で日米関係はどうなる?

2020年09月03日(木)16時00分

総裁選びに名乗りを上げた菅官房長官は安倍政権の継承を掲げているが Issei Kato-REUTERS

<トランプが再選すれば、日本に通商、安保政策で無理難題を吹っかけてくる危険は高くなる>

安倍首相の辞任で、「安倍=トランプ」という日米首脳間の個人的な信頼関係が終わるのは避けられません。一方で、アメリカも大統領選挙を目前に控えており、ポスト安倍の各候補はトランプ再選、バイデン就任という2つのシナリオへの準備が求められます。

ところで、安倍首相の対米外交に関してはあらためて高い評価がされ、その辞任を惜しむ声があります。その前提として、2016年に当選する前の選挙戦の段階から、トランプ大統領の言動のなかには日本に対する「通商関係」と「安保体制」の双方について、日本にとっては大きく不利になる変更を行う兆しがありました。

危険極まりないと判断した安倍総理は、大統領選から10日も経っていない2016年11月17日にトランプ本人をトランプタワーの私邸に訪ね、以来個人的な会合を重ねていきました。

安倍首相の一連の対トランプ外交に関して、アメリカの政界がどう考えているかは、8月にバーチャル形式で行われた民主党大会の中で上映されたビデオが参考になります。「バイデン候補と笑顔で会談する安倍首相」の写真に加えて、「シャルルポワ・サミットにおいて、G6首脳がトランプを取り囲んで自由貿易原則を守れと迫った際」の安倍首相が大写しになった写真が取り上げられていたからです。

「2期目のトランプ」の危険性

安倍首相のトランプ外交は迎合や癒着などではなく、また屈辱的な忍従でもなく、「トランプというリスク」をいかに低減するかという当然の行動を徹底して行っただけということは、野党の米民主党にも理解されています。ただし、これも一部に誤解があるようですが、一連の対トランプ外交は安倍首相の強いリーダーシップで行われたというより、外務省と官邸が連携したプロの仕事だったと理解するべきです。

そのトランプと、ポスト安倍の3人の相性ですが、私は危機感を持っています。と言いますか、仮に安倍首相が続投したとしても、「2期目のトランプ」に対応には困難があるからです。

トランプの製造業復権というストーリーの原点には、80年代の日米貿易摩擦の記憶が刻み込まれています。これは2016年の選挙戦でもそうでしたし、今回の共和党大会でもトランプ・ジュニアのパートナーで、トランプ選対幹部のキンバリー・ギルフォイル氏は、絶叫調のダークなスピーチの中で、日本を通商の敵だと名指ししていました。また、在日米軍のコストを「100%」負担させる「公約」については、安倍政権は先延ばしに成功しましたが、いまだにくすぶっています。

その上で、「2期目のトランプ」については一言で言えば「公約らしい公約はない」一方で、「コロナ後の経済起動には苦しむ」だろうし、「対中通商交渉は結局はまとめざるを得ない」という流れの中で行くことになると思います。そこで政治的な行き詰まりが起きた場合に、通商と安保を材料に日本に対して無理難題を吹っかけてくる危険は1期目以上に警戒すべきです。

<関連記事:安倍晋三は「顔の見えない日本」の地位を引き上げた
<関連記事:政治家にとってマクロ経済政策がなぜ重要か──第2次安倍政権の歴史的意味

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米、イランのフーシ派支援に警告 国防長官「結

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story