コラム

45年前の「ハプニング解散」当時と現在の政治状況を比較すると

2025年04月30日(水)14時00分

東南アジアを歴訪中の石破首相(4月29日、マニラ) Rolex Dela Pena/POOL/REUTERS

<物価高騰、政治不信、与野党拮抗など当時の状況と似た点は多いが......>

日本の政界や、これを取材対象としているメディアの政治部などでは「政局の一寸先は闇」という言い方が良く使われてきました。政局、つまり議院内閣制度を前提として両院の議会を通じて行われる権力闘争では、突然、思いがけないことが起きるので警戒すべきという意味だと思います。

この格言ですが、戦後史の中で最も当てはまる事件は、1980年5月の「ハプニング解散」だと思います。それから45年、現在の政局にはこのときの状況に似た条件が揃っているのも事実です。1980年の5月と45年後の2025年の5月を比べることで、最新の政局の行方を考えてみたいと思います。


まず1980年の状況ですが、激動の予兆は前年からありました。78年の11月に総裁選が行われたのですが、現職の福田赳夫は大平正芳に敗北して総理の座を降りました。実は、この総裁選については福田が大平に禅譲、つまり総理・総裁の座を譲る密約がありました。福田はこれを破って再選を目指した一方で、大平はこれに挑戦して権力をもぎ取ったのでした。

その大平は79年の4月には統一地方選挙で大勝。これに自信を深めた大平は10月に解散総選挙に打って出ますが、ロッキード事件で被告となっていた田中角栄と連携していたことが批判されるなどして惨敗。福田など党内から退陣要求が出て泥試合となったものの粘りに粘って第二次内閣を発足させていました。(いわゆる「40日抗争」)

「大義の薄い」内閣不信任案が可決

この間、78年にはイラン革命が発生し、第二次石油危機が進行。また同じく78年にはソ連がアフガニスタンに侵攻しました。イランでは亡命したパーレビ元国王を奪還するとして学生たちがアメリカ大使館を占拠。アメリカのカーター政権は、ソ連とイランに対して厳しい姿勢を取りました。

ちょうど1980年の夏にはモスクワ五輪が予定されていましたが、カーター大統領以下のアメリカはこれをボイコット。またイランに対しては厳しい制裁をしたり、人質奪還作戦を決行して失敗したりしていました。当時の日本は、自動車とエレクトロニクス製品の競争力がどんどん強くなり、アメリカとの間で激しい貿易摩擦が展開されていました。

大平政権は、最終的に五輪への不参加を決定しつつ、何とかイランからの石油の輸入を続け、その上で自動車摩擦を沈静化させるという難しい3元連立方程式を解かねばならなくなりました。そんな中、5月の連休中に大平は、アメリカ、メキシコ、カナダを訪問し、カーターとの首脳会談については防衛費の増額などを土産に何とか自動車摩擦の問題を乗り切ったのでした。ですが、カナダ滞在中にユーゴのチトー大統領の死亡というニュースが入ると、大平は急遽その国葬に参列して帰国するなど激務となっていました。

直後の5月22日、特に深い理由もなく野党から「内閣不信任案」が出ました。参院選への勢いをつける以上でも以下でもない「大義の薄い」提出だったのですが、これが意外なことに「可決」されてしまったのです。その結果として、歴史に名高い「ハプニング解散」がされて、任期満了の参院選と衆院選の珍しい同日選挙となりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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