コラム

ロックダウン解除をめぐって激化する不毛の米イデオロギー対立

2020年04月30日(木)17時00分

理由は比較的単純で、東部や太平洋岸は国際社会との関係が深い一方で、都市型の人口密度の高い社会であるために、感染拡大が早かったのです。反対に、中西部は国際社会から孤立しており、また人口密度が低いために感染が遅かったのです。

昨今の情勢はこれに、「大きな政府の繰り出す政策で住民の安全を図る」という「リベラル」の大きな政府論に対して、「政府の機能は最低限で良く、安全は自分たちで守る」という「アメリカ保守」独特の「小さな政府論」の対立が重なってきているのです。

マスクをせず、人との距離も気にしないで「ロックダウン反対、自営業の営業の自由を奪うな」というプラカードを掲げて、大声で叫ぶ(これも感染防止には良くないはずですが)デモ隊の姿勢には、こうしたアメリカ独特のイデオロギーがあるわけです。「自分の健康は自分で守る」のだから、「政府は放っておいてくれ」という主張は、まさに「国民皆保険は社会主義者の陰謀」だとして「オバマケア反対」を叫ぶ理屈と同じというわけです。

この対立にブルーステートは警戒感を隠していません。感染拡大が早かったブルーステート諸州は、「ガイドライン」に沿って慎重なステップを踏んで経済の「再オープン」を進めようとしていました。ところが、南部などの諸州が「まだ感染拡大が続いているのに」知事の裁量で「ロックダウン中止」を進めてしまうと、結果的に全米でのアウトブレイクは止められなくなる危険があるからです。

ホワイトハウスは「板挟み」

トランプ大統領のホワイトハウスは、ある意味で自分たちが煽った結果として、保守的な諸州が暴走を始めてしまったわけです。そして大統領自身が、その動きを止めようとしても止められなかった、つまりある意味で「板挟み」状態にあるわけです。

その一方で、例えば、4月28日の火曜日に、ペンス副大統領がミネソタ州の著名な病院を激励に行った際に、マスクを着用していなかったことが大きな批判を浴びています。コロナ感染拡大で大変な思いをした東部からは、「許せない」という大合唱が出てくる一方で、この副大統領の姿勢は「マスク嫌いのアンチ・ロックダウン派」に「おもねる」のが目的だったのかもしれません。

ニューヨーク州のクオモ知事やニュージャージー州のマーフィー知事は、一貫して「コロナ対策に政治対立を持ち込むな」という姿勢を貫いており、2人とも民主党知事でありながら、大統領への批判は一切封印してきました。ですが、事態はますますこの2人の知事の心配していた方向に流れているようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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