コラム

ロックダウン解除をめぐって激化する不毛の米イデオロギー対立

2020年04月30日(木)17時00分

カリフォルニア州でロックダウンの解除を求める住民たち(今月26日) Kelly Neill-REUTERS

<ニューヨーク州のクオモ知事らは「コロナ対策に政治対立を持ち込むな」という姿勢を貫いているが、事態はますますその方向に>

新型コロナウイルスの感染拡大に関するトランプ大統領の言動は、これまで何度も立ち位置が変わってきています。まず、2月の時点では「もしかしたらすぐに収束する」とか「コロナ問題を大げさに扱うのは民主党系のフェイクニュース」という言い方で、真剣に取り上げないという姿勢が目立っていました。

その後、アメリカにおける感染拡大が深刻になると、3月11〜13日にかけて専門家チームの助言を受け入れて、全米でのロックダウンを進めるようになりました。ですが、4月中旬になると急に「治療のために患者が死んでしまっては元も子もない」つまり「コロナ対策でロックダウンをするのはいいが、経済を殺してはダメ」というメッセージを出し始めたのです。

このメッセージに触発されて、全米で保守系のデモが拡大していきました。星条旗を振り回して「ロックダウン反対」を叫ぶもので、参加者がマスクもせずに「密集」する現象が多くの州で見られたのです。こともあろうに、トランプ大統領は「社会を解放せよ」などというツイートを連発して、デモに呼応する姿勢を見せていました。

中西部の州から「社会の再オープン」

これに対して、ホワイトハウスの専門家チームは、大統領周辺と協議をして「社会再オープンのためのガイドライン」を発表しました。基本的に「14日連続で感染者数が減少」したことを条件として、3つのフェーズを経て社会活動を再開するという「見取り図」です。

ところが、南部諸州は、この「ガイドライン」を無視するかのように「社会の再オープン」を決定。例えばジョージア州は、4月24日からボウリング場やジム、理髪店などの営業を解禁するとしたのです。これに対してはトランプ大統領は「良いことだが、少し早すぎる」と声明を出したのですが、ジョージア州はオープンを強行しました。

現在は、週末になると「ロックダウン反対」のデモが中部から西部、あるいは南部では当たり前になる一方で、感染拡大が続いているにもかかわらず続々と「オープン」する州が出てきています。これに対して、知事が強いリーダーシップを発揮してロックダウンを続けているニューヨーク、ニュージャージーなど東部の州は警戒感を強めています。

そもそも、新型コロナウィルスの感染拡大については、見事なまでに「ブルーステート(民主党優勢の州)」と、「レッドステート(共和党優勢の州)」の違いがハッキリしていました。「ブルーステート」では感染拡大が早く、「レッドステート」では遅かったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story