コラム

米セブンイレブンのホームレス対策は大音量クラシック

2019年09月10日(火)18時20分

その一方で、ホームレスの存在を許容したり、彼らに対して距離を置きつつ保護するような政策を取っている都市もあります。こうした中で、ホームレスの人々は、排斥政策の都市から許容政策の都市に移動しているというのが現実です。ですから、ホームレスが可視化されているという場合は、どちらかといえば文化的、政治的にホームレスの存在が許容され、財政的にも保護が可能な都市だということが言えます。

その上で、タバコと宝くじを収益の柱とする24時間コンビニという業態は、ホームレスが事実上許容されている都市の場合は、深夜も明るい拠点として、ホームレスが滞留するスポットになりがちなのです。

それはともかく、同じ「大音量クラシック作戦」がLAでは効果があり、NYではなかったのは何故なのでしょうか? やや無責任な推測になりますが、LAの人々は、ポップ、ロック、ジャズといったアメリカ近代の音楽にプライドを持っているために、「大音量のクラシック」は自分のプライドを保つために「嫌う」のではないか、その一方で、NYの人々は生活の中にクラシックも存在していて、それこそ「クラシックでも踊れる」、そんなストーリーは描けそうです。

ホームレスの人々を「大音量のクラシックで追い払う」というのは、第一印象としては非人間的なイメージがありますが、特にNYのエピソードなどを考えますと(あくまで個別事例という可能性はありますが)全く救いのない話でもなく、これも一種の人間ドラマという感じは多少します。

その前提として、深夜にコンビニの明かりに寄ってくるホームレスの人々にしても、彼らを遠ざけるために「大音量のクラシック音楽」を流すオーナーの人々にしても、そもそもタバコと宝くじが主要な商品という業態にしても、日本のコンビニ文化とは全く別の世界がアメリカにあるのは事実だと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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