コラム

トランプ亜流にも劣る、韓国への素材輸出規制

2019年07月09日(火)18時30分
トランプ亜流にも劣る、韓国への素材輸出規制

韓国の半導体メーカーが製造した液晶ディスプレイ用の部品(2008年) Lee Jae-Won-REUTERS

<日本は輸出規制の延長線上に、半導体やスマホ製造を韓国から奪回する見込みも持っていない>

日本政府は7月4日から、半導体や有機ELパネルなどの製造に使われる3品目の化学物質、つまりハイテク関連素材について、輸出許可取得の手続きが簡素な「包括輸出許可制度」の対象から韓国を除外しました。

口実としては、本来が軍事転用可能な戦略物資であるのに、緊急納品が横行するなど「手続きの簡素化が悪用されている」として、「制度本来の規制に戻す」というのですが、これは明らかに韓国の半導体やパネル製造業への「通商戦争」を仕掛けたとしか言いようがありません。

その背景にあるのは、トランプ外交と同じメカニズムです。トランプが中国に仕掛けている通商戦争は「アメリカのGDPにもマイナス」であり、長期化の観測がされる度にニューヨーク市場の株価は下げています。

ですからアメリカ経済にもマイナスなのですが、それでも大統領が中国とのケンカを止めないのには、2つの理由が指摘できます。

その1つは、トランプのコアの支持者は現役世代よりも年金受給世代が中心なので、GDPが傷んでも気にしない。むしろ自分が現役の際に味わった通商戦争の屈辱を晴らすのであれば、それで満足できると考えている。

2つ目は、短期的にはマイナスでも、中国を国際ルールに従わせたり、まわりまわってアメリカの製造業復権ができれば中長期的にはメリットがある。

という2つの理由です。

安倍政権が目をつけたとしたら、このうちの1つ目の方だと思います。それこそ、年金問題での説明の失敗が、支持率の足を引っ張っている現状があるわけです。そんな中で、現役世代の利害に関わる実体経済が多少痛んでも、年金受給世代の保守的な心情に訴えることができれば、選挙戦の挽回が可能という計算をしている可能性は十分にあります。

ですが、問題は、今回の日本対韓国のケースでは、日本側には2番目のメリットはまったくないということです。

半導体にしても、有機パネルにしても、仮に素材を事実上禁輸にして韓国企業の動きを止めたとしても、日本にはその製造能力を奪う力はありません。

半導体に関しては、はるか昔に投資合戦に負けて汎用品の市場から日本は完全に撤退してしまっています。有機ELパネルについても、最初に量産化したのはソニーですが、ある時点で大型製品の商品化については自社では不可能だとして、事業を売却してしまっているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

MAGAZINE

特集:香港の出口

2019-8・27号(8/20発売)

拡大する香港デモは第2の天安門事件に? 中国「軍事介入」の可能性とリスク

人気ランキング

  • 1

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

  • 2

    韓国、外貨準備に対する対外債務が高水準に 金融収支の安定度低下へ

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいつ…

  • 5

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

  • 6

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 7

    「レッドブルを飲んだのに翼が生えない」あなた、代…

  • 8

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 9

    アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠…

  • 10

    ミャンマー人権侵害は家庭でも「骨が折れるほど妻を…

  • 1

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 5

    韓国、外貨準備に対する対外債務が高水準に 金融収支…

  • 6

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安…

  • 7

    「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激…

  • 8

    日本の重要性を見失った韓国

  • 9

    韓国金融当局、独10年債利回り連動デリバティブを調査…

  • 10

    日韓対立の影響は?韓国経済に打撃大きく、日本経済…

  • 1

    寄生虫に乗っ取られた「ゾンビ・カタツムリ」がSNSで話題に

  • 2

    ハワイで旅行者がヒトの脳に寄生する寄生虫にあいついで感染

  • 3

    日本の重要性を見失った韓国

  • 4

    ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 6

    異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開

  • 7

    「TWICEサナに手を出すな!」 日本人排斥が押し寄せる…

  • 8

    韓国で日本ボイコットに反旗? 日本文化めぐり分断…

  • 9

    「韓国の反論は誤解だらけ」

  • 10

    韓国・8月15日、文在寅大統領の退陣要求集会には、安…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!