コラム

ハノイ米朝会談をトップニュースから吹き飛ばした「コーエン証言」の衝撃

2019年02月28日(木)16時45分

議会証言ではトランプ擁護の共和党議員との間で罵倒合戦になる一幕も(議場に掲げられた「嘘つき、尻に火が付いた」とコーエンを罵るボード) Carlos Barria-REUTERS 

<「人種差別主義者で詐欺師」と言い放ったコーエン証言によって、トランプが窮地に陥り、米朝会談に悪影響が出るという懸念も出ていた>

アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は2月27日(水)、ベトナムのハノイで第2回の首脳会談に臨みました。会談にあたっては、前回のシンガポール会談の際と同じように、アメリカの各メディアは、一斉に報道陣を送り込みました。

例えば、地上波のNBCは東部時間夕方6時半の看板番組「ナイトリー・ニュース」のアンカーパーソンであるレスター・ホルトをハノイに派遣。生中継で伝える体制を取っていました。

会談1日目が終わった27日の夕方6時半の番組は、確かハノイからの中継映像で始まり、ホルトが登場しました。ホルトは、「本日は、歴史的な二分割画面から始めます」と述べて左半分にアメリカ国内のニュースを、そして右半分にハノイ会談の最初の握手のシーンを映して見ませました。ですが、「二分割」は最初の一瞬だけで、ニュースの本論に入ると最初の話題は、北朝鮮との首脳会談ではなく、国内ニュースでした。

そのニュースとは、トランプ大統領の元個人弁護士であるマイケル・コーエン氏が連邦議会の下院監視(オーバーサイト)委員会に召喚されて、宣誓証言したという話題でした。

コーエン氏は、既に議会における偽証罪などで有罪となっており、最終的には自分の罪を認めて捜査協力をしていますが、依然として実刑が確定した状態であり、収監中の身ですが、今回は議会に召喚されました。証言は3日間にわたって行われ、26日の初日と28日の最終日の公聴会は秘密会とされ、2日目の27日(終日)の証人喚問だけが公開で行われました。

その27日の公聴会は、CNNなどのケーブル・ニュース局だけでなく、地上波の3大ネットワークも中継するという「大イベント」となり、その内容が夕方のトップニュースとなったのです。

NBCの「ナイトリー・ニュース」の場合は、最初の14分間がこの「コーエン証言」のニュースで、ハノイ会談はその後、5分程度という扱いでした。もちろん、ハノイ会談については、この日は初日で内容もほとんど公開されていない段階でしたし、歴史的なシンガポール会談ほどの話題性もなかったのは事実です。

ですが、その扱いの差というのは大きく、とにかく「大統領が現地にいるハノイ会談」よりも、「大統領のスキャンダルを扱うコーエン証言」の方が大きなニュースになったということは、異例ということでは確かに歴史的な現象だったのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値、ナイキやマイクロ

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story