コラム

長崎県と佐賀県の利害衝突から道州制を考える

2018年07月31日(火)17時20分

諫早干拓では97年に水門が閉じられ、諫早湾の広大な干潟が消滅した STR New-REUTERS 

<諫早干拓、長崎新幹線をめぐって長崎県と佐賀県は利害がぶつかっているが、道州制という枠組みで考えれば九州全体の利益を総合的に判断できるのでは>

長崎県諫早市と雲仙市にかけて建設された「国営諫早湾干拓事業」の開門問題をめぐって、7月30日に福岡高裁は開門の強制を許さないという判決を言い渡しました。これによって、最終的な判断は最高裁に持ち込まれることとなりました。この問題ですが、次のような対立構図があります。

<長崎県の営農者側>
干拓によってできた調整池を農業用水として耕作。堤防の開門には強く反対。

<佐賀県(など)の漁業者側>
堤防閉め切りにより漁業に支障。試験的開門を行い水産資源の回復がされるか検証を要求。

ということで、双方の主張は真っ向から対立しています。漁業への影響が本当にあるかまだ分かっていないのは事実なので、とにかく試験的に開門して調査すれば、真実が分かるだろうという考えがありますが、長崎県側はこれに強硬に反対しています。

それは事実が分かるのを恐れているのではありません。開門して海水が調整池という堤防の内側に流入すると、そこから農業用水をくみ上げているので、農業に大きなダメージが生じてしまうのです。

ちなみに、堤防建設前は「ため池」などを水源としており、豪雨災害の危険と隣り合わせという問題もあったそうです。ですから長崎県側としては、「いかに試験的な開門を阻止するか」が大きなテーマとなっており、その立場からすれば、今回の判決は一歩前進というわけです。

一方で、長崎県と佐賀県には別のトラブルもあります。九州新幹線(長崎ルート)の問題です。こちらはすでに着工しており、佐賀県の武雄温泉駅から長崎駅までは今、フル規格新幹線の工事がピークを迎えています。沿線では、どんどん高架橋が完成し、トンネルも貫通し始めており、この区間の開通は2022年度内に開業が決まっています。

問題は佐賀県内の武雄温泉から新鳥栖までで、こちらは狭軌の在来線のままであり、現時点では新幹線の計画はありません。このままですと、「リレー方式」つまり博多から佐賀経由で武雄温泉までは在来線特急に乗り、武雄温泉で新幹線に乗り換えて長崎に行くということが当分の間は続くことになります。

これを避けるために、新幹線の幅の広いレール幅(標準軌)と在来線(狭軌)を相互に乗り入れ可能な「フリーゲージトレイン(FGT)」の開発を国が進めてきたのですが、非常に難しい技術であり、車両も維持費も高額となることから、この長崎ルートでの採用は断念することになっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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