コラム

泥仕合の様相を呈してきた、アメリカの「セクハラ糾弾」合戦

2017年11月21日(火)15時15分

フランケンの場合は、さらに第二の被害者女性が名乗り出たり、ハフィントンポストの創業者で、リベラル論客のアリアナ・ハフィントンに対して、「ふざけてお尻を触ったり、胸を触ったりしている」写真が暴露される(但し、ハフィントンは、特にコメントせず)など、窮地に陥った状況です。

さらに11月20日には、アメリカのテレビキャスターとして最も尊敬を集めていた存在として、現在までCBSの朝のニュースと、ブルームバーグの対談番組のホストとして活躍していたチャーリー・ローズに対して、8人の女性がセクハラ行為への告発」を行なっています。告発の内容はかなり深刻なもので、ローズは即時休業に追い込まれています。

そんなわけで、保守とリベラルが、お互いに新たな「容疑者」を必死になって探しているという構図になっているのですが、このトレンドの背景には、一つの強い動機があります。それはリベラル派の間に、「いつの日かトランプ大統領のセクハラ問題について動かぬ証拠を突きつけたい」という目的意識があるということです。つまり、もちろんこの機会に徹底的に「セクハラは悪」という世相を作っていけば、大統領がいつか「ボロを出すだろう」という極めて政治的な計算です。

この問題に関連して、FOXビジネスニュースの経済キャスターであるマリア・バーチロモが騒動を起こしています。バーチロモは、対談相手のリベラル派から「フランケンの疑惑を批判するのなら、トランプ大統領の昔から言われているセクハラ疑惑も問題にすべきだ」と言われたところ「大統領には一切の疑惑はありません」とか「フランケンの場合は決定的な証拠があり、大統領への噂を同列に扱うことはできません」と強く明言して「大炎上」となっているのです。

バーチロモはFOXに移籍する前のCNBC時代には、9.11の同時多発テロで動揺するNYの市場を丹念に報道するなどして人気があり、当時は中道だったのですが、移籍後は局の方針に合わせて保守に転じています。そんなわけで、彼女はアメリカのニュース・メディアでは大変な有名人なのですが、今回の騒動で炎上する中で、多くのリベラル派のフォロワーを一方的にブロックしたことでさらに評判を下げています。

今回の「セクハラ摘発ブーム」を通じて、これまで告発を躊躇してきた女性たちが一斉に発言し出したこと、そしてこの種の被害から女性を守るべきだという社会的合意が強く形成されつつあるのは良いことだと思います。ですが、左右対立の構図の中で、お互いに暴露合戦の泥仕合に陥っているというのもまた事実です。それにしても、アル・フランケンはともかく、チャーリー・ローズまでがスキャンダルに見舞われるとは私にも全く予想外でした。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル/円下落、石破首相進退巡る不確実

ワールド

エプスタイン文書にトランプ氏の名前か、米司法長官が

ビジネス

米IBM、第2四半期業績予想上回る AI需要でサー

ビジネス

米テスラ、第2四半期は12%減収 過去10年超で最
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 2
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家安全保障に潜むリスクとは
  • 3
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつものサラダ」に混入していた「おぞましい物体」にネット戦慄
  • 4
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 5
    バスローブを脱ぎ、大胆に胸を「まる出し」...米セレ…
  • 6
    【クイズ】億万長者が多い国ランキング...1位はアメ…
  • 7
    トランプ、日本と「史上最大の取引」と発表...相互関…
  • 8
    中国経済「危機」の深層...給与24%カットの国有企業…
  • 9
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 10
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 6
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 7
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 8
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 9
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 10
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story