コラム

バノン抜きのトランプ政権はどこに向かう?

2017年08月22日(火)17時00分

ということは、軍の現場から出てきた「アフガンから一方的に撤退してはアルカイダやISISの拠点作りを許すことになる」が、「ここまで強いタリバンは、どこかで認めないと戦争の出口はない」、その上で「現在のアフガンのガニ政権に国家再建の主体になってもらいたい」という認識にほぼ乗っかった判断だということが言えます。

アメリカの国益を最優先に「他国への不介入主義」を主張して、特にアフガンからは即時撤退を求めていたバノンが去った今、トランプ政権は、軍と共和党穏健派の描く現実主義に大きくシフトしたということが言えます。

ちなみに、バノンは平和主義者なのかというと、決してそうではありません。極端な孤立主義であり、世界の苦しみやトラブルに対して「アメリカは一切関知しない」と突き放すばかりか、生命の危険を感じて紛争地から避難してきた難民も「危険だ」と追放するという排外主義の立場だからです。

では、今回の演説の中で大統領は「バノン的なもの」を一切排除したのかというと、そうではありませんでした。アフガンに続く「南アジア戦略」の部分では、まずパキスタンに「テロリストの拠点化」を許さないとして強い疑念の目を向けつつ、反米分子の摘発を求めていますし、同盟国のインドに対しても米国の支援を受けつつ経済的なメリットを享受することは再考せよとしています。そしてNATOなどの同盟国には、これまで以上の負担を要求しているのです。

このアフガン演説ですが、「バノン抜き」のトランプ大統領としては、とりあえず「現実主義的な政策にシフト」して、議会共和党などとの関係を修復し、暴言問題で受けたダメージを修復したいということなのでしょう。

【参考記事】トランプが共鳴する「極右思想」 ルネ・ゲノンの伝統主義とは?

興味深いのは共和党穏健派の動きです。15日に大統領の暴言が飛び出した翌日にNBCテレビに出演して「火の出るような憤怒の表情」で大統領の「極右擁護」を批判していたオハイオ州のジョン・ケーシック知事は、18日には「大統領には交代を求めることはしない。共和党は大統領の下で団結すべきだ」という意味深長な発言をしています。

また、21日の「アフガン演説」の直後に、CNNテレビに登場したポール・ライアン下院議長は、演説の中で大統領が「国内の団結」を口にしたことを、シャーロットビルの事件に関する暴言を大統領が「反省している証拠」だというような寛容な解釈をした上で、このアフガン新方針については、全面的に賛成し、支えるとしていました。ただ、その後で「ネオナチ、KKK、白人至上主義者」への支持と受け取れる発言は「全面的に批判する」と断言して大統領に釘を刺すことも忘れていませんでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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