コラム

トランプ就任演説、挑発的な姿勢はどこまで本物なのか?

2017年01月21日(土)15時30分

 非常に不自然だったのは、新大統領の背後に控えていた閣僚候補の人々は、どちらかと言えば共和党本流に近いと言われる、億万長者、それも投資銀行家や石油メジャーの人々でした。そうした人々の意向を取り入れて、経済成長を確実にするような現実的な政策を取るというメッセージはまったく入っていなかったということです。

 こうなると、トランプ大統領一流の「暴言パフォーマンス」で話題性を確保する「劇場型政治」を続ける一方で、むしろ現実的には大企業重視の現実的な政策を進めていくのではないか、そんな「うがった」見方をしたくもなります。

 宣誓と就任演説を終えた新大統領は、早速「声明文書」に署名をしていました。内容は直ちにホワイトハウスのホームページにアップされましたが、ここではTPP交渉からの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しなどが謳われています。また「オバマケア」廃止へ「向けた」大統領令にも署名しました。

 しかし、この日の演説に見られたような「過激なトランプ路線」がどんどん現実の政策になっていくことは考えにくいわけで、実際の政策は実行可能な現実路線にならざるを得ないでしょう。ですが、それでは「忘れられた」コアの支持層は納得しません。そのために、今後も世論の関心を引き付ける「劇場型政治」を続けていかなくてはならないのです。

 そう考えると、今回の演説のコアのファンだけにターゲットを絞った「極端なトランプ流」は、かなりの部分がパフォーマンスで、実際の政策は、象徴的な「トランプ流」は進めていくにしても、まったく異なる現実的な政策も多く進められていくと思います。

【参考記事】テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

 それはともかく、個人的にはトランプ大統領の表情が終始硬かったのが印象的でした。ビジネスの世界では百戦錬磨を自認するトランプ氏ですが、合衆国大統領の重責の前には非常に緊張していたようです。反対に、退任したオバマ前大統領は極めてリラックスした表情に終始し、極めて好対照でした。

 一方でヒラリー・クリントン氏は、終始笑顔を見せて通そうとしながらも、折々に厳しい表情を見せていたのが印象的でした。その表情は、トランプ氏への反感もあれば、あらためて意外な形で選挙に負けたことへの悔しさだったのかもしれません。

 この就任式を境に大きく歴史は転換し、第45代合衆国大統領ドナルド・トランプの時代が始まったのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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