最新記事

現地リポート

テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

2017年1月21日(土)14時55分
小暮 聡子(ワシントン)

Satoko Kogure-Newsweek Japan

<アメリカの分断を象徴するかのようだった就任式だが、事はそう単純ではなかった。就任式会場で、歓声と抗議のあいだに見えたものとは>

 2017年1月20日正午(米東部時間)、「トランプ米大統領」が誕生した。

 首都ワシントンの連邦議会議事堂前での宣誓を経て、ドナルド・トランプ(70)が第45代アメリカ大統領に就任した。トランプ支持者たちの歓声と、「トランプ大統領」を認めない人々による悲痛な叫びを一身に浴びながら――。

 CNNによる世論調査によれば、就任式直前のトランプの支持率は40%と、近年の歴代大統領誕生時の中でも極端に低い。バラク・オバマ前大統領の1期目就任直前の支持率が84%だったのと比べるとその不人気ぶりは明らかで、トランプの就任式には大物スターだけでなく約60人もの民主党議員がボイコットを表明していた。史上まれにみる「祝福されない」大統領の誕生とはどんなものなのか。その瞬間を見届けようと、就任式の会場に向かった。

 就任式当日の朝8時。取材許可を得て会場となる議会議事堂前の規制エリアに入ると、色とりどりのカッパを着た人たちがすでに大勢詰めかけていた。思ったほど寒くはないが、小雨がパラついている。

ny170121-1.jpg

ミズーリ州から来たというトランプ支持者 Satoko Kogure-Newsweek Japan

 入場券保持者のみが入れる参加者席の顔ぶれは、予想に反して多彩だ。「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンが刻まれた赤い帽子をかぶった白人たちは、もちろんたくさんいる。だがこうした白人たちに混じって、アジア人やヒスパニックなど白人以外の姿もちらほら見受けられる。

 シーク教徒だというインド人男性に「トランプは人種差別主義者だとは思わないか」と聞いたところ、「君に話すことはもう何もない」と言われてしまったので、彼もトランプ支持者であることは間違いない。

 式典の開始を待つなか、後部席を振り返ると白人男性がおもむろにトランプの首ふり人形を取り出して携帯電話で自撮りを始めた。「トランプ支持者か」と聞くと、大統領選ではヒラリー・クリントンに票を入れた民主党員だという。

 1969年のニクソン大統領誕生時から毎回欠かさず就任式に来ているというこの男性(69歳)は、「恐怖の瞬間を見届けようと」サンフランシスコから30人のグループでやって来たと言い、「何かをするためにここに来た」とニヤリと笑った。手に握られたトランプ人形をよく見ると、人形が服を着ていない。その横で、彼の息子だという男性がジャケットの中に着込んだオバマのTシャツを見せてくれた。会場に来ているのはトランプ支持者だけではないようだ。

ny170121-2.jpg

裸のトランプ人形を持つ民主党支持者と、オバマTシャツをジャケットの中に着込んだその息子(右) Satoko Kogure-Newsweek Japan

ny170121-3.jpg

サンフランシスコから来た別の民主党支持者 Satoko Kogure-Newsweek Japan

 それでも式典がスタートすると、やはり周りは圧倒的にトランプ、もしくは共和党支持者が多いことが判明した。ステージ上にカーター元大統領夫妻とビル&ヒラリー・クリントン元大統領夫妻が姿を現しても、会場はほとんど盛り上がらない。それが、ブッシュ元大統領夫妻には大きな拍手が送られ、ファーストレディーになるメラニア・トランプがジャクリーン・ケネディー元大統領夫人を彷彿させる装いで登場すると、周りの白人女性から悲鳴に近い歓声が上がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中