最新記事

現地リポート

テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

2017年1月21日(土)14時55分
小暮 聡子(ワシントン)

 トランプの登場が近づくと、規制されたエリアの外、つまりはるか後方から、時おり地響きのような声が聞こえてくる。トランプ大統領の誕生に対する抗議の声なのかは分からないが、その怒号のような声をかき消すようにして規制エリア内で「トランプ! トランプ!」の大合唱が始まる。少なくとも周りの人々は、場外の声を「抗議」と解釈して反撃に出ているようだ。

 2つに分断されたアメリカを前に、満を持してトランプが登場した。もちろん周囲は熱狂の渦に包まれているが、私の後部席の民主党支持者たちからは何の声も聞こえてこない。

 正午。式典のハイライトである就任宣誓を経てトランプ新大統領が誕生すると、その瞬間に止んでいたはずの雨が降り始めた。空が泣き出したのか――瞬間的にそんな陳腐な言葉が浮かんだが、少なくともここにいる人たちにとっては嬉し涙なのだと思い直した。

 その後の大統領就任演説は、約15分とあっけなかった。トランプらしからぬ落ち着いた口調ではあったが、内容はいかにもトランプ的。「アメリカ第一主義」を掲げ、「アメリカ製の物を買い、アメリカ人を雇用する」と約束すると、参加席からは「U.S.A.」コールが始まった。イスラム過激派によるテロを地球上から一掃するという宣言には、この日最大の喝采が上がった。

「忘れ去られた人々がこれ以上、忘れ去られることはない」と語ったが、おそらく今、その「人々」に場外の人々は含まれていない。彼らの叫びもトランプには届いていない。これからもそうなのだろうか。

【参考記事】ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文(英語)
【参考記事】トランプ就任演説、挑発的な姿勢はどこまで本物なのか?

 就任式が終わるのを待たずに、クリントン支持者だという後部席の男性が立ち上がった。裸のトランプ人形を見せつけるようにして空に掲げて、何も言わずにその場を去っていく。彼が言っていた「抗議」とはこれだったのか。その彼に対して、抗議の声は特に上がらない。

 何かが起きるのではないか――そう懸念さえされていた式典だったが、拍子抜けするほど何もなかった。トランプは予定通り大統領になり、オバマの時代は終わった。

 しかし規制されたエリアから外に出ると、そこにはまったく別のアメリカが広がっていた。パレードが行われるペンシルベニア通りの周辺には、就任式帰りのトランプ(もしくは共和党)支持者を待ち受けるかのように反トランプの人々が集結していた。

「Not My President(大統領とは認めない)」と叫ぶ黒人の若者たちや、「必要なのは壁ではなく鏡だ」と書かれたプラカードを無言で掲げる悲しい目の白人女性を前にしたとき、1つの時代が本当に終わったことを悟った。その近くでは暴動が起きているという連絡が入るなか、黒人女性が白人警官に後ろ手に逮捕されている現場にも遭遇した。

 明日、就任式の翌日にはワシントンで20万人規模とも言われる抗議デモが予定されている。最高司令官となったトランプ大統領の下で、アメリカは一体これからどこに向かうのだろうか。

【スペシャルリポート】<ニューストピックス>トランプ新政権 波乱の船出

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反落、中東情勢巡る懸念で

ワールド

仏大統領、イラン政権交代につながる軍事行動に反対 

ワールド

G7、ウクライナ巡る共同声明断念 米国が抵抗=カナ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、中東緊迫化で安全買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中