コラム

2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の集中

2016年12月27日(火)15時00分

AndreyPopov-iStock.

<日本式「働き方」の改革が議論されているが、問題の本質は、環境変化のスピードが上がっている現在、権限のある幹部と情報・スキルを持つ現場との間に認識のズレが広がっていること>

 長時間労働や仕事の非効率の問題について、日本の経済界でもようやく問題意識が高まってきました。日本式の「働き方」を改革しなくてはいけない、そのような機運を生かして本当に改革を実現できるかは、2017年の日本社会の課題になると言ってもいいでしょう。

 では、その働き方の改革はどのように変えていったらいいのか、その一つの考え方は、総量規制です。残業時間の上限であるとか、ノー残業デーといったものがそれです。ですが、どんなに総量を規制しても、仕事の進め方が変わらなければ効率はアップしません。同じ理由で、要員増というのも、あるいは会議の時間制限といったものも、その中身が変わらなくては抜本的な解決にならないと思います。

 この間、日本の場合は、余りにも対面型コミュニケーションが重視され、そのために効率が犠牲になっているという議論を筆者は展開してきました。ですが、営業にしても、会議を止めてスカイプにしたり、メールにしたりしても今のままでは仕事は前に進みません。

 余りにも「見える化」が要求されているので、会議やプレゼンの資料やスライドなどの準備に時間がかかって非効率になる――それも正しいのですが、では資料やスライドを簡素化すれば効率アップになるのかというと、いきなりやってもダメなわけです。

 会議にゾロゾロ人が出てくるとか、自分の作業があるのに会議に出ないといけないので、自分の作業は定時以降になるという問題もあります。では会議に出る人間を絞れば良いのかというと、これも簡単ではありません。

【参考記事】夫が家事を分担しない日本では、働く女性の不満は高まるばかり

 問題の本質はどこにあるのでしょうか。どうして対面型コミュニケーションや、見える化が要求され、しかも会議には関係する各部署の管理職から担当者まで幅広い範囲と階層が参加しなくてはならないのでしょうか?

 その背景にあるのは一つの問題です。それは、日本型組織の場合には、権限を持っている人、判断に必要なスキルを持っている人、最新の現場情報を持っている人、この3層がバラバラなのです。特に伝統的な組織を維持している産業ではそうです。

 どうして会議に大勢が招集されるのか、それはこの3層が意思決定の場に参加していないと、仕事が前に進まないからです。

 対面型コミュニケーションが必要な理由はというと、大きな権限を持っている人には専門スキルがないので最新情報が生データで来ても判断ができないからです。つまり、情報を持っている人や、スキルを持っている人の「態度や表情」を重要な判断の要素にした上で、自分のほうが分からないことについて、一つ一つ確認しなくてはならないからです。

 会議などで「見える化」が必要な理由も同じことです。最終権限のある階層には「十分な判断スキル」がないために、階層の下から上に「難しいことを分かりやすく説明しなくてならない」からです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、 ウクライナと協議再開の用意と外務省高官

ビジネス

適切な金融政策運営が非常に重要、政府日銀一体で取り

ワールド

日本供与のエムポックスワクチン、3分の1が廃棄 コ

ワールド

焦点:米航空会社、感謝祭目前で政府閉鎖の影響に苦慮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 8
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 9
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story