コラム

バングラデシュ人質事件、日本はこれから何ができるのか?

2016年07月05日(火)18時20分

 問題はこの2つの要素が結びつく可能性があるということです。ハシナ政権は、極めて親日的で、今回の円借款事業にも大変な期待感を持っていると思います。過去の様々な政権が、結局は「国民を貧困から救えなかった」ために潰されてきたことを深く認識している現政権は、政権を安定化させるには経済成長を確実にするしかなく、そのためには日本の援助と技術協力は不可欠だからです。

 ですが、今回の事件に対するリアクションによっては、国内の過激なグループが、日本の円借款事業や、日本人そのものをターゲットにする可能性があります。この点に関しては、では危険だからということで必要な援助ができなければ、国全体が貧困から抜け出すことができず、ハシナ政権は苦境に立ってしまうでしょう。

【参考記事】バングラデシュ人質事件の余波、繊維産業へ大打撃か

 そこで3つ提案したいと思います。

 一つ目には、安倍政権は「今回の事件はISISの仕業で、欧米と共にテロと戦う」というメッセージを出すのは控えるべきです。バングラの国内問題を、ファンタジーともいうべき聖戦イデオロギーとリンクさせようとする連中の思うツボだからです。

 二つ目には、ハシナ政権に対しても、何らかのルートを使って「今回の事件を材料にしてジャマティ・イスラミ、あるいは間接的に関連があるとしてBNPに政治攻勢をかける」のは控えてもらわなければなりません。国家の分断は、治安を悪化させるだけで、改善はしないからです。野党陣営への弾圧が始まっている気配もありますが、何としても引き返してもらわなくてはなりません。

 3つ目には、とにかくプロジェクトに関わっている日本人に、ピンポイントの精緻な治安情報を伝える仕組みを作らなくてはいけないということです。殺害された方々は、コンサルという立場で「縁の下」の苦労をしていたことが拝察されます。そうした方々に、大使館やJICA事務所が持っていたのと同レベルの安全情報が届いていたか。そこは徹底的な連絡体制の見直しが必要だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍がホルムズ海峡封鎖へ、イランは交渉に戻る見通し

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 4
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story