コラム

中国の鶏肉問題、論点の再整理が必要では?

2014年07月24日(木)10時32分

 中国の上海市にある「上海福喜食品」で、使用期限切れの鶏肉がファストフード向けの加工に回されていたというニュースですが、まるで毒入り餃子事件の時と同じような「中国における食の安全」への不信感といった報道がされています。

 これは日本だけでなく、問題が最初に大きく報じられたアメリカでも同様で、似たような報道、そして似たような該当商品撤去の動きとなっています。

 ですが、この問題、もう少し論点を整理したほうが良いと思います。

 まず一点目は、使用期限の問題です。アメリカでの報道でもそうなのですが、色々とハッキリしない点があります。この問題は中国のメディアの報道を受けて、中国の当局が営業停止処分の上で調査に入っているのですが、その際に「使用期限切れ」だというのは、あくまで中国基準であるわけです。

 中国の基準がアメリカや日本より厳しいのであれば、問題はそれほど深刻ではありませんが、中国の基準が緩いのであれば、その基準をクリアしている他の業者も含めて問題はもっと深刻に考える必要があります。

 一部の報道では、古い肉と新しい肉を混ぜていたとか、床に落ちた肉を拾って使っていたというような「映像」も存在していると伝えています。またニオイのする牛肉を使ったという報道もありますが、そうであれば単に「冷凍しっぱなしで化石化」しただけでなく、もっと悪質な解凍後の劣化とか、食品の扱いそのものに問題がある可能性があります。

 こうした点が事実であれば大問題ですが、とにかく使用期限の基準がどうなのか、どんなオペレーションがされていたのか、といった事実を突き合わせてみなくては、正確な論評はできません。

 そして二点目は、摘発の体制の問題です。今回の事件は、中国のメディア報道で発覚し、中国の当局が迅速に調査に入っています。この点で、過去の中国における「食の安全」事件とは状況が全く違います。例えば毒入り餃子事件の場合は、日本での健康被害があって初めて発覚し、しかも発覚当初の中国当局の動きは鈍かったのですが、それとはまるで別の国のようです。

 日本もアメリカも、この中国当局の摘発を深刻な問題と受け止めているのは事実です。それが評価できる動きであるのならば、中国社会が国際的に信頼できる社会体制を整えつつあることとして受け止めることができます。

 もちろん、一方的に中国当局の調査結果を信じるだけでなく、事実がどうだったのかを冷静に見ていくことも必要と思いますが、とにかく、今回の対応は非常に迅速であり、以前とは全く印象が違うのは事実です。仮にそうであれば、毒入り餃子事件と同じような「やっぱり中国産は危険」といったリアクションは、やや短絡的であると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

政府、経済対策を閣議決定

ワールド

EU、豪重要鉱物プロジェクトに直接出資の用意=通商

ビジネス

訂正-EXCLUSIVE-インドネシア国営企業、ト

ワールド

アングル:サウジ皇太子擁護のトランプ氏、米の伝統的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story