コラム

東大入試の「面接導入」は成功するか?

2013年03月18日(月)14時27分

 このニュースに関しては、ネット上に飛び交った反応が興味深かったです。多くの評論家だけでなく、アンケート調査の類でも「反対」が圧倒的なのです。恐らくは、「話下手だが才能のある若者が冷遇されそう」という懸念、あるいは「主観的な面接で評価が偏る」危険を心配しているのだと思います。

 その奥には就活戦線を支配している「地頭(じあたま)+コミュ力」が重要という価値観が入試にまで及べば、大学までが単一の価値観に染め上げられて息苦しくなるという危機感があるのかもしれません。

 ですが、今回の東大の「推薦入試+面接」の導入というのは、もっと切実な危機感から来ているのだと思います。何と言っても切実なのは、他大学での推薦枠という制度が定着しているという問題です。私大の多くの学部では、指定校推薦枠とかAO推薦などという制度がどんどん広がっていて、早いところでは高三の10月に「内定」ならぬ「合格内示」を行なっているのです。

 この指定校推薦枠というのは、全国の高校の中でいわゆる進学校とみなされている学校の場合は、1校あたり1人の枠が設定されていることが多いわけです。そこで「成績優秀で人物の評価も高い」学生で「秋の時点で進学先が決定出来れば安心」だという高校生は、「サッサと枠を使って」私大などに進学を決めてしまうのです。

 ということは、「それでも不合格になるリスクを取って東大を受けたい」という学生でなければ、東大の欲しいような優秀な学生でも「推薦で早期に進学先が決まる」というメリットを重視して、私大に行ってしまうという現象が起きているわけです。

 勿論、東大の人気が絶対的であれば「そんな推薦枠など無視して、浪人してでも東大に」ということになるのでしょうが、東大人気が相対的なものに過ぎなくなって来ている今、特に地方の進学校で「トップから数名の優秀層はサッサと推薦枠で」他に逃げてしまうという現象が出てきているのだと思われます。

 東大としては死活問題であり、この「高三の秋の推薦枠による学生の獲得競争」に参戦しておかねば、特に地方の優秀な学生に逃げられるという危機感を持っているのだと思います。ですから、実務的な観点からして東大としては「待ったなし」という感覚を持っていると考えられます。

 もう1つの要素としては、大都市の受験校高校生の動向です。東大は、近年は「大学説明会」などを行なって「東大のイメージアップ」に努めていますが、その理由としては「合格後の辞退者」があると言われています。東大を辞退するというのでは、過去にも「他大学の医学部に入った」ので「東大を蹴る」というケースがありましたが、最近はハーバードをはじめ「米国の一部名門校」が留学生への奨学金支給を開始しており、こちらに優秀な学生が流れ出しています。

 つまり、指定校推薦により地方進学校の学生が取れなくなり、国外流出により大都市圏受験校のトップ層も押さえられなくなっているわけです。東大は「点数主義の学生ではダメだ」などと格好をつけていますが、もっとベーシックなところで足元が崩れている、つまり現在のシステムに固執していては「点数」という尺度で見ても優秀な学生を確保できなくなっているのだと思います。

 では、今回の「面接導入を含む推薦入試制度」は、そのような退潮に歯止めをかけることができるのでしょうか?

 残念ながら今回発表された案では難しいと思います。まず、指定校推薦は1校1人に限定し、しかも1月のセンター試験を受けさせてその学力を加味した選抜を行う、しかも何時間もかけて面接をするというのです。これでは、10月の時点で「合格内定」を出す私立から地方の優秀な学生を奪い返すことも、アイビー留学に興味を持つ層の「つなぎとめ」もできないと思われます。

 もしかしたら東大は、今年の「文一志願者激減事件」にショックを受けて、地方進学校のトップでもなく、アイビー興味組でもない、その次の「中の上の学力だが入学後ちゃんと頑張ってくれそうな学生」をコツコツ集めて、100人でも押さえることができれば「御の字」と思っているのかもしれません。それならそれで、何十年も言ってきた「大学院大学」に進むことにして、院のクオリティで世界と勝負するという作戦に行くこともできる、そんな考えがあるのかもしれません。

 ですが、それでは結局全体がどんどん地盤沈下してしまうと思います。少子化がドンドン進む一方で、優秀層の海外志向が出てきた中では、とにかく東大は国内の他大学とも、世界の大学とも戦って優秀な学生を確保しなくてはダメです。

 具体的にはまず「新入学生への期待」を明確にすることです。その上で、100人だけでなく、3000人の新入生全員を「学力試験だけでなく、活動履歴や進路への意識などの申告書、面接」などの総合評価により、授業への参加能力、専門性とその背景にある才能の証明、リーダーシップ能力などの観点から、多様な合格基準を意識しつつ優秀な学生を選抜するのです。

 そのためには、英語の試験はTOEFLを中心とし、英語の長文(今年の東大二次の一番のような易しすぎる英語ではなく)を読ませて批判を日本語の長文エッセイで書かせる「英文和論」と、日本語の古典(明治以降)を読ませてその現代的意味を英語で書かせる「和文英論」などの工夫をすべきです。

 それよりも何よりも、基礎学力選抜のためにセンター試験(英語を除く)については「易問と難問を混ぜて問題数を増やし、点数分布を更にバラけさせる改良」を加えたものを、遅くとも「高三の夏休み」までに「セカンドチャンスを含めた複数受験機会」で実施し、高三の10月時点でほぼ選抜が可能な材料を大学が得られるようにすべきでしょう。センター試験がそうした変更に対応してくれないのなら、東大を含む一部の大学連合が民間に委嘱してやっても構いません。

 いずれにしても、ホンモノの動機付け、ホンモノの学力、学ぶ上で必要な各種スキルを持った学生を早期に確保できるような仕掛けを東大は必死に考えるべきです。今回発表されたような「面接とセンター試験を要求し、10月には結論の出ない1校1人の指定推薦」などという中途半端な制度ではダメだと思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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