コラム

アメリカの宗教保守派と、日本の「夫婦別姓反対論」の異なる点とは?

2012年02月27日(月)13時41分

 アメリカの宗教保守派は妊娠中絶反対に異常にこだわっているわけですが、その背後にはヨーロッパやアジアと結託して稼いでいる東北部やカリフォルニアのリベラルへの反感があるわけです。中絶問題だけでなく、例えば同性婚への反発や、進化論への反対なども同じことです。

 どうして21世紀の今日に「進化論否定」なのか、どうして同性婚の合法化にあそこまで反対するのかというのは、文字通りの信念と言うよりも、それだけ宗教保守派の中には「グローバリズムから置き去りに」され「価値観として見下された」ことへの怨念が強いと理解すべきでしょう。

 では、こうしたアメリカの保守派が持っている社会価値観の背景にある心情は、日本の同種の主張を理解する上で手助けになるのでしょうか? 例えば、日本の場合ですと「夫婦別姓論」への反対論というのがあるわけですが、別姓にするかどうかは、その夫婦当人二人の勝手であるわけです。にも関わらず「絶対反対」という姿勢の奥には何があるのでしょう?

 表面的には「家族制度が崩壊する」という主張があります。ですが、別姓がダメなら事実婚でとか、そもそも二人の関係に姻族が介入してくるのがイヤだから結婚しないという判断も増えているわけで、考えてみれば「別姓反対派」の行動がかえって家族の形成を阻害しているとも言えるでしょう。

 これに加えて、夫婦が別姓だと子供が「いじめ」に遭うからダメだという意見があります。これなども、よく考えれば「苗字の違う両親を持つ子がいじめられた場合」に、「いじめる側」に回るのか、「自然に交際する側」に回るのかということを考えれば、反対派の「おばあちゃん」などは「いじめる側」つまり「あそこのお家は考え方がおかしいから、あの子とも仲良くしてはダメ」などと言いそうなわけです。倫理的な正当性は低いわけです。

 にも関わらず「別姓には絶対反対」という心情の奥には何があるのでしょう?

 一つ考えられるのは、例えば専業主婦として一生を過ごしてきた女性の中には「若い世代が女性が働くのは当たり前」だとして「自分たちを見下してくる」のが許せないという心情があるのではないか、という点です。

 この感情に加えて、「ウチの嫁がウチの姓を名乗らないのは屈辱」という「姑」根性もあるのではないでしょうか。男性の側からの「舅」的な反対論もあるでしょが、恐らくは「反対の心情」の核にあるのは、こうした高齢の女性のように思われます。そこに「自分の人生は決して思うようなものではなかった」という屈折が加わると、感情論が増幅してゆくわけです。

 つまり、こうした日本の「保守的な価値観」には世代の問題が強く重ねられているのです。例えば、アメリカの「反中絶、反進化論、反同性婚」というのは、勿論そこに世代の問題もありますが、決定的ではないわけで、地域によっては若い世代の支持を集めているわけです。ですが、日本の場合は世代の問題は非常に大きいように思います。

 そこには日本が戦前から戦後、高度成長から安定成長、そしてバブル崩壊後の「失われた10年、20年」の時代へと社会的にも、文化的にも激しい変化スピードで突っ走ってきたという問題があります。こうした戦後日本の猛スピードでの変化の反動としての疲労感という問題があるのではないでしょうか。

 日本の高齢者が時として、こうした社会価値観の問題に非常に頑固な姿勢を見せるのには「本当に苦労して人生を生きてきた自分は、もっともっと尊敬されていいし、もっともっと大事にされていい」という強い思いがあるからのように思うのです。それは、ある意味で彼らが現役世代の際に溜め込んだ疲労感がまだまだ癒されていないということではないでしょうか。

 そう考えると、例えば世代間の富の偏在という問題に関しても、自ら進んで「我々の世代は自分の人生と日本の成長が重なった幸福な世代だった」として若い世代に富を再分配しようなどという高齢者は非常に少ないのではと思います。「私たちは十分に幸福でなかった。私たちの努力はまだ十分に報われていない」という実感、そして「まだまだ長生きする中で将来には不安を感じる」という中で、蓄積した富を放棄するのは難しいと思われるからです。

 そうは言っても、世代間の富の偏在という事実はもはや社会的に耐え難いレベルになっています。また、夫婦別姓どころか、婚外子がどんどん生まれて社会的に歓迎されるような時代が来ないと、このままでは日本は少子化で消えて行ってしまうわけです。いくら高度成長の疲労感を引きずっているといっても、高齢者世代の名誉を気にしていては社会として前へは進めません。

 もしかすると日本の若い世代が、こうした問題に関して毅然として「世代間闘争」を戦わないのは、こうした高齢世代の屈折に対して直感的に「敵対するのは不可能」と思ってしまっているからなのかもしれません。アメリカの価値観論争の場合は、それこそリベラルの側も論陣を強固にして、堂々と対決してくるのですが、日本の場合は世代が絡む中での「堂々と対立」することへの遠慮や敬遠という問題があるように思うのです。

 ですが、このまま時間が流れてしまっては、それこそ何もかもが手遅れになるわけです。高齢者の主張について聞くべきところは聞きながら、ある意味で世代同士の徹底した論戦ということが必要な時期なのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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