コラム

チャットGPTが反社の手下になったら、どうする?(パックン)

2023年03月11日(土)21時02分

AIチャットボットのポテンシャルはもちろんすごい。適当な話し相手として楽しいし、悩み相談の相手として利用する方も多いようだ。さらに、チャットGPTはミネソタ大学の法科大学院の試験、名門ペンシルべニア大学経営大学院の試験、イェール大学では医師免許の試験の一部を突破しているし、少し進歩すると健康や法律、経営の相談などに答えてもらえるようになるはず。それも、どこにいる誰にでも、ほぼ無料(いまのところ)で。専門知識の民主化だ!

さらに、この先のAIボットはリサーチをし、丁寧な文章で取引先とやりとりする「アシスタント」にもなるはず。プログラミングも旅行の計画も、マーケット分析も、映画のプロット作りも、キャッチコピー作成も、ウェブデザインも、スポーツやお天気、時事ニュースの発信も、経理も、税務も、裁判での弁護もできるはず。文章だけではなく、AIが作った音楽も、絵も、映像も音声の「作品」も人間に負けない日はすぐそこだ。

AIが反社の「手下」になったら?

こちらも、どこでも誰にでもほぼ無料で利用できる「サービスの民主化」としては喜ばしい進展だ。だが、ここにも危険が潜んでいる。善人のアシスタントでも、悪人の「手下」になり得るから。詐欺、盗難、横領、フェイクニュースや陰謀説の流布、選挙介入、誹謗中傷、なりすまし、ハッキングなどにも使われてしまうはずだ。

AIは一流の技術を持ち、成功を求めて常に学習しながら年中無休で働いてくれる、反社会的組織にとっては最高の「手下」だ。被害者となる一般市民はそんな手下にすぐ「お手上げ」になるだろう。

また、AIが担当する作業を元々生業にしていた本物の人間たちはどうなるのだろうか。秘書も、旅行代理も、投資アナリストも、ライターも、コンサルタントも、デザイナーも、ジャーナリストも、会計士も、税理士も、弁護士も、医師も、音楽家も、芸術家も、映像クリエイターもAIに代替されたらどうなる?

多くの人にとって、仕事は生計の手段というだけでなく、アイデンティティーやステータス、コミュニティーの基礎にもなっている。AIに代替されてしまったら、個人の精神も、社会全体も大きく揺れるはずだ。個人の家計も、経済全体も大変動するはず。AIが主な仕事をこなすなら、主な報酬も主にAIの持ち主に入ってしまう。チャットGPTを開発したOpenAI社の創立者(イーロン・マスクとか)にもっともっとお金が集まるべきだと思っている人(イーロン・マスクとか)は満足だろうけど。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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