コラム

令和フィーバー:使いづらいものの発表にお祭り騒ぎの愛すべき日本

2019年04月09日(火)14時10分

世界も本当は憧れてる(かも)

詐欺師は別にしても、みんな盛り上がり過ぎだろう! という声も聞こえた。メディアは主に肯定的な見解だが、ちまたではひそかな「反元号」のさざ波も起きた。特に「そろそろ西暦でよくない?」という疑問が目立っていた。

当然かもしれない。銀行の窓口近くに「今は平成〇年」と書いてあるぐらい、普段から元号を使っていない人が多い。僕も子供の誕生年を元号で聞かれるとすぐには答えられないし、僕の周りで複数の元号をまたぐときの引き算がすぐできる人はいない。

「大正3年創業のお店って、何年前からあるの?」と聞いても、みんな「うん、老舗ですね~!」としか言わない。答えられる人でも「大正元年は1912年だから......」と、西暦に直してから計算する。歴史上の出来事が最も分かりづらい。「1315年の大飢饉」と聞いたらすぐ分かるけど、「明暦の大火」ではいつごろ起きたことかピンとこない。その名称に「いつ起きたか」という情報が入っているのに!

そんな使いづらいものの新バージョンが発表されるときにお祭り騒ぎをする日本人は、世界の目にどう映るのか。正直、そんなこと気にしなくていいと思う!

各国でも不思議な伝統がある。アメリカのメディアは2月2日に冬眠から覚めたグラウンドホッグが自分の影に気付くかどうかを大きく報道する。スペイン人はトマトを投げ合う。坂の上から転がしたチーズを追っ掛けて、イギリス人も転がっていく。きっかけは何であれ、祭りは楽しいもの。

それよりも、グローバル化に伴い、さまざまな面で「日本っぽさ」が消え続けるなか、現代に残る日本独自の文化を大切にするのは実に素晴らしいことだと思う。

神武天皇から数えると日本の天皇家は2600年以上も続いている。2番目のビザンチン帝国の倍以上の歴史を誇る世界最長の朝廷だが、元号は国の長い道のりの進み具合を計る一里塚的な存在となっている。考えてみれば、日本の元号の数(248)はアメリカ独立宣言からの年数(242)よりも多い! 世界は元号騒ぎをする日本をおかしく思うより、実は羨ましく思っているかもしれない。

何といっても、太古から続くこの国は今も世界で例を見ないほどの安定国家。平均寿命が長く、治安がいい。教育も倫理レベルも高い。スキャンダルはあるが、ダブル学園問題、統計問題、忖度発言などは世界から見れば超かわいいもの。麻薬使用者やジャーナリストを殺していないし、首脳側近が塀の中に入っていないし、不正選挙をしていない......。

激動の時代に珍しいほど揺らいでいない国だからこそ、新元号がトップニュースとなり得る。この騒動があったからこそ「令和」は昔からの伝統・文化だけではなく、和やかな現在をも象徴する大事な元号となるのではないか。

少なくとも、僕はそう思う。誰も僕の意見を聞いていないけど。

<2019年4月16日号掲載>

※この記事は本誌「世界が見た『令和』」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。

【関連記事】令和と天皇──皇室制度はこれからも時代に順応する

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story