コラム

トランプ議会演説は、普通に戻ったフリをしただけ

2017年03月09日(木)20時15分

例えばアメリカ各地で、ユダヤ教の施設や個人に対する嫌がらせ(爆破予告の脅迫も含む)がこの3カ月で90回以上も相次いでいる。以前は記者会見で聞かれてもその問題に触れなかったトランプだが、議会演説の冒頭で取り上げた!

「近年、ユダヤ人コミュニティセンターを標的とした脅迫や、ユダヤ人墓地の破壊があり、先週にはカンザス州で銃撃事件が発生しました。政策についてはさまざまな意見が存在する国だとしても、大変醜い形で示される嫌悪や悪意に対しては、力を合わせて立ち向かう国であるということを忘れてはいけません。」

偉い! ちょっと遅くて、普通に戻っただけだけど、偉い! と思った。が、後にワシントンポストの記事を読んでがっかりした。実は演説を行う数時間前に、ある会議で、トランプ大統領はこれらの事件は「反ユダヤ教」ではなく、「その逆」の意を持つと示唆したという。つまり、反トランプの感情を煽るためにユダヤ教徒が自ら犯した、自作自演の事件だと思っているらしい。

これは、オルトライト(アメリカ版ネット右翼)の間で有名な陰謀説だが、トランプの側近も同じ趣旨の内容をツィッターで伝えている。演説で伝えたかったのは宗教差別の撲滅ではなく、「反・反トランプ運動」の呼びかけだったみたいだね。

【参考記事】トランプのWTO批判は全くの暴論でもない

もう一つ、演説で希望を持ったのはこの部分。

「司法省から提供されたデータによると、9.11テロ以降、テロリズムやテロリズムに関連する犯罪で有罪判決を受けた人々の圧倒的な過半数は、国外からやってきました。」

偉い! 今までと違ってフィーリングではなく、データに基づいてしゃべっている! と思った。が、フィナンシャルタイムズが伝えた通り、トランプが参考にしたセッションズ司法長官の報告書を見直してみると、演説の内容と全く違う結論になる。

米国内で起きたテロとテロ関連の事件や陰謀で有罪判決を受けた外国人は全体の6.9%に過ぎない。また、ニューアメリカ財団の分析によると、9.11テロ以降にアメリカで死者が出たイスラム過激派テロ事件は、どれも犯人が米国籍または永住権を持っている。情報源を示しながら、データを悪用するのも嘘に当たる。前回紹介した英単語で言うと、Trump is trumping again。トランプがまたトランプっている(ねつ造している)のだ 。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story